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年金 脱退手当金−浮上する年金の不信(上)支給トラブル

「年金記録確認第三者委員会」への申立書に記入する松田京子さん(仮名)=兵庫県西宮市の西宮社会保険事務所


 ■表面化、渋る社保庁

 参院選での与党大敗で、年金記録の紛失問題が終わったわけではありません。多くの人が自分の年金を見直したことで、新たな問題も浮上しています。今回は、その一つ、かつて勤続年数が短い女性などが退職時に受け取った厚生年金の「脱退手当金」を取り上げます。初回は「脱退手当金を支給済み」という社会保険庁に対して、「もらった記憶はない」と異議を唱え、「年金記録確認第三者委員会」に訴えた女性の話です。(中川真)

 「なぜ、受け付けすらしてくれないんですか」

 全国の社会保険事務所で「年金記録確認第三者委員会」の受付が始まった7月17日、兵庫県の西宮社会保険事務所に、同市の主婦、松田京子さん(72)=仮名=の怒声が響いた。

 松田さんは昭和28〜32年の4年間、2つの会社に勤務し、厚生年金に加入。結婚退職後は国民年金に変わった。厚生年金の被保険者台帳には「脱退手当金(総額7875円)支給済み」と記載されている。当時は結婚後に再就職する女性が少なかったため、希望すれば支払った保険料に見合う額が脱退手当金として返納される代わりに、厚生年金とは縁が切れる−という制度だった。

 ところが、松田さんには手当金をもらった記憶がない。厚生年金の加入期間は国民年金に合算され、老齢年金に生かされると思っていた。約15年前に記録を知って驚き、「神に誓って受け取っていない」と抗議してきたものの、証拠を示せず堂々巡りが続いた。

 そこへ持ち上がった年金記録紛失問題。政府は社保庁と違う見方で記録を調べようと、「年金記録確認第三者委員会」を中央と47都道府県に設置した。松田さんは地方受付の初日、真っ先に窓口である最寄りの社会保険事務所を訪ねたのだ。記者も同行し、取材させてもらった。

 対応した事務所幹部は当初、「第三者委が扱うのは(保険料を払った)記録が見つからない年金についてです。脱退手当金は調査の対象外なので受け付けられません」と“門前払い”の姿勢を崩さなかった。

 押し問答や兵庫社会保険事務局(神戸市中央区)への照会が約1時間続いた。松田さんが「第三者委に直接行って訴える」と息巻いたこともあり、事務所側は結局、「差し戻されるかもしれませんが、やむを得ないので、受け付けはします」と、申立書を預かった。

                   ◇

 ところが、その後の取材で西宮社会保険事務所の当初の対応は間違いだったことが分かった。総務省の第三者委事務局が「脱退手当金も対象にしている。社保庁も分かっているはず」と明言したからだ。

 そもそも、第三者委は社保庁との間で解決できない年金のトラブルを扱うためにできた組織だ。事務局も厚生労働省でなく、各省の行政評価を担当する総務省が務める。社会保険事務所は、申立書に年金記録や経緯の説明を添えて第三者委に渡す“窓口”にすぎない。受け付けるかどうかを勝手に判断していいはずがない。

 兵庫社会保険事務局に問い合わせると、「西宮社会保険事務所から照会があったが、職員が勘違いして、『受け付けられない』と答えてしまった。“門前払い”と批判されても仕方ない」と釈明した。

 同事務局では、職員の認識がバラバラで、他の社会保険事務所からの同様の問い合わせには、受け付けるよう指示していた。ただ、受付初日は各地で混乱もあったようで、ある地方事務局の担当者は「本庁に打診したくても、電話がつながらなかった」と振り返る。年金記録問題のすそ野が広がっていることを示している。

                   ◇

 松田さんは「手当金は横領されたに違いない。それがバレるから、第三者委に回したくないんでしょう」と憤る。

 “横領”があったかどうかはともかく、社保庁側が厚生年金の脱退手当金をめぐるトラブルを表面化させたくないのは確かだろう。

 松田さんのように、約50年も前に退社した人だと、社保庁も受領証など、「支払った証拠」がなく、台帳の記載しか示せないからだ。

 一方、地方に先立って判断を始めた中央の第三者委は、保険料の納付記録がない国民年金など、計23件について、主張に不自然な点がないとして、「保険料を払った」などの申し立てを認める判断をしている。「手当金をもらった記憶がない」という訴えが殺到すれば、社保庁は「支給済み」の証明に苦慮することになる。

 実際、読者の投書でも、脱退一時金をめぐるものは目立っている。次回は、ほかのケースと合わせ、松田さんが指摘する記録の“矛盾”を検証しながら、「脱退手当金」とは何だったのかを探っていく。

(2007/08/06)

 

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