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年金 脱退手当金−浮上する年金の不信(中)社会的背景


 ■軽視されていた女性

 かつて、結婚退職した女性の多くが受給していた厚生年金の「脱退手当金」。前回は「もらった記憶がない」と訴える人を取り上げましたが、引き続き、支給記録に疑問も多い実態を紹介します。脱退手当金をめぐる問題は、厚生年金がかつて、いかに女性に不利な制度だったかも示しています。(中川真)

 埼玉県で夫と会社を経営する山下君代さん(67)=仮名=は昭和40年の結婚前まで、近県で約6年間、団体職員をしていた。年金を受け取る前に確認すると、厚生年金の被保険者台帳には、退職時に1万4079円の脱退手当金を支給済み−と記録されていた。

 ところが、山下さんはもらった記憶がなく、何度も当時の所轄の社会保険事務所に問い合わせたという。しかし、社会保険事務所は、本人の請求書など、当時の記録を「庁舎が変わったので、もう保管していない」。しかも、受け答えは毎回のように異なったという。

 山下さんは退職直後、自分の年金が心配になり、元上司に確認を依頼したという。「ちゃんとなっているから大丈夫」と返事をもらい、「お礼に名産の梨を贈ったことをはっきり記憶している」と話す。ただ、こうした状況証拠で記録は変更されず、山下さんは「こんなひどいことはありません」と社保庁への怒りをあらわにする。

                  ◆◇◆

 脱退手当金の支給をめぐる不信は第一に、社保庁の記録管理の甘さにある。ただ、年金制度そのものが女性に不利だった時代背景も大きく絡んでいる。

 年表は、民間企業の社員を対象にした厚生年金制度を中心に、女性がどう位置づけられていたかをまとめたものだ。

 厚生年金が主に、終身雇用の男性向けに作られた制度だったことがよくわかる。将来の年金額に反映される保険料率は、平成5年まで男女差があった。国民年金でも、夫がサラリーマンの専業主婦は強制加入でない時代が長かった。

 問題の「脱退手当金」は、支払ってきた保険料に見合う額を、退社時にまとめて返してもらう代わりに、年金は受給できなくてもいい−という制度で、昭和60年に廃止されるまで、被保険者の希望で選べた。

 男性の対象者は一般に、退社後に年金をもらえる期間が、当時の感覚で短い可能性がある55歳以上の被保険者。一方、女性は昭和53年まで(一時期を除く)、若いころに数年間(2年以上)働き、結婚退職したような人も対象だった。

 社会保険労務士の木村光一さんは「脱退手当金は『女性は結婚後、再就職しないだろう』という、古い時代の遺物」と指摘する。年金は、妻を扶養する夫が加入し、夫が死亡しても、妻には遺族年金が入るから問題ない、という発想に基づいた制度だったといえそうだ。

 昭和36年に国民年金ができ、種類の異なる年金の加入期間が合算できるようになったものの、短期加入の女性を厚生年金から外す脱退手当金の制度は、その後も長く残った。

                  ◆◇◆

 山下さん同様のケースで、前回紹介した兵庫県西宮市の松田京子さん(72)=仮名=も、「社保庁は最初、私の厚生年金の資格喪失は昭和31年で、その年に脱退手当金を支払ったと言っていたのですが、私が退社したのは32年。めちゃくちゃですよ」と話す。

 かつて勤務していた大手機械メーカーに問い合わせると、「在職中の社員の厚生年金を勝手に脱退することはありえません」という回答。松田さん自身、労務を担当しており、「手当金をもらう気はまったくなかった」と話す。

 松田さんは、会社を管轄する大阪市内の社会保険事務所に当時の在職証明書を提出。再調査を求めたところ、実際の退職日に沿って台帳が訂正されていたという。

 「何の断りもなしに、間違いを指摘している私の記録を書き換えたんです。許せません」。松田さんはその後15年近く抗議してきたが、対応が変わらないので、今回新設された「年金記録確認第三者委員会」に申し立てた。

 今となっては、頼りは台帳と記憶だけだが、大阪社会保険事務局は取材に対し、「松田さん以外の人も含め、この事務所が扱った脱退手当金の請求書など、当時の書類は廃棄されている。当時は保管義務がなかった」と説明する。

 脱退手当金をめぐるトラブルは本人の記憶違いか、社保庁の記録の誤りか。もう1つ、会社が脱退手当金を受け取った可能性も否定できない。当時は役所の本人確認が甘く、「会社の請求に応じて手当金が支払われていた」と多くの社労士、社保庁関係者が指摘する。

 本人に年金脱退を説明せず、「嫁入り道具の足しに」と退職金代わりに支給した会社もあったようだ。これも女性の年金が軽視されていたことのあらわれだろう。

(2007/08/07)

 

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