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年金 脱退手当金−浮上する年金の不信(下)受給の悲劇


 ■“消えた”年10万円超

 厚生年金の脱退手当金を、「支給済み」とする社会保険庁と「もらった記憶がない」と主張する女性を前回まで紹介しました。最終回は、退職の際に脱退手当金をもらい、「損をした」と思っている読者の疑問に答えます。(中川真)

 「当時、知り合いの女性はみんな、結婚退職のときに、厚生年金の脱退手当金をもらっていました。でも、もらっていなかったら、年金は満額でもらえたんでしょうね」

 奈良県の読者、西岡純子さん(58)=仮名=は、そう残念がる。西岡さんは高卒後に就職。約5年間務め、昭和48年に退社した。その後は、国民年金に加入した。

 退社時に厚生年金の脱退手当金をもらっていなければ、国民年金が満額受給できる「加入期間40年になるのに…」。西岡さんは年金の加入記録に反映されていない期間が「カウントされていたら…」と、60歳を前に後悔しているという。

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 前回紹介したように、脱退手当金は、「結婚する女性は、もう再就職しないだろう」との考えで、退社時に、支払った保険料相当額を本人に払い戻した制度だ。本人が選択するルールだったが、実際には勤務先が手続きするケースも多かったようだ。

 昭和53年まで、短期加入の女性に適用されていたので、40代でも「手当金をもらった」という女性はいるはずだ。

 現在は性別を問わず、何らかの年金に加入する決まりで、退職や転職で年金の種類が変わっても、加入記録は通算できる。

 それだけに、脱退手当金を受給した女性には、もし、脱退手当金を受けなかったら、年金はいくら増えていたのか−は、関心の高い点だろう。

 在職中の給与などが分からないと、正確な額は出ないが、社会保険労務士の木村光一氏は、「年金アップ額=2700円×働いていた月数(被保険者期間)」という推計を示す。

 木村氏はもともと、今年60歳になる平均的な大卒の男性サラリーマン(配偶者がおり、加給年金も含め、満額月18万円程度)の場合、厚生年金の加入が1カ月増えると、年金額が年3600円増える−という試算を公表している。働いた期間が短い高卒女性に適用すると、賃金格差などを加味し、「1カ月=2700円」になると推計する。

 西岡さんの場合、厚生年金に5年4カ月間、加入していたから、増える年金額は「2700円×64カ月=17万2800円」と推計される。月額、1万4400円だ。

 西岡さんはもらった脱退手当金の金額を記憶していない(社会保険事務所に照会すればわかる)ので、単純比較は難しい。

 そこで、前回紹介した2人のケースで推計したのが、別表。2人の記憶通り、脱退手当金が支給されていなかったとすれば、2人とも年金額は年間10万円以上多かったと考えられる。支給開始から今での総額は、松田さん=仮名=で約159万円、山下さん=同=で約137万円に達すると見られる。

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 「支給済み」とされる脱退手当金は、どの程度の価値だったのだろう。総務省の消費者物価指数などによると、現在の物価は松田さんが退社した昭和32年の約5・5倍なので、7875円の脱退手当金は、いまの感覚では4万3000円程度だったとみられる。

 山下さんの場合も、退社した昭和40年から物価が約4倍になっているので、1万4079円の脱退手当金は、いまの約5万6000円程度にあたる。いずれの例でも、脱退手当金は年金よりも「かなり損」(木村氏)だということが分かる。

 実は、公務員などが対象の共済年金にも、昭和54年まで「退職一時金」という似た制度があった。しかし、これは厚生年金よりも、被保険者(5年以上の在職者が対象)にかなり有利な内容だ。

 まず、退職時に一時金を全額もらうか、一部を将来の年金用に積み立てるかを選べた。

 共済年金の制度設計をする財務省主計局の担当者によると、全額受け取った人の扱いは厚生年金の脱退手当金と同じ。一部だけ受け取ることも可能で、その場合は受け取った分を年金支給前に利子をつけて返還する代わりに、年金額に反映される。

 試しに、その利率を松田さん、山下さんに支給したとされる脱退手当金にかけると、それぞれ約5万7000円、9万2000円となる。それでも、年金額よりかなり安い。

 脱退手当金には、性別だけでなく、官民格差もあるわけだ。脱退手当金をもらった記憶がある人もない人も憤りはやはり、簡単には収まりそうにない。

(2007/08/08)

 

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