産経新聞社

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社会保障これから 病床減でサービス向上

 世界一と言われる日本の医療だが、批判も多い。不親切で説明の不十分な医師がいる、予約を取っても待たされる、技術が十分でない医療機関がある−などが指摘される。しかし、これは、日本で医療が安い単価で受けられることの負の側面でもある。

 特に、病院でのこうした問題は、他国と比べて、人口当たりの病院数と病床数が多いことから来ていると考えられる。病院や病床が多いから、病床当たりでは、医師や看護師などが極端に少ない。

 こんなに病床が多いのは、1970年代から90年代に、老人医療の無料化や診療報酬の大幅引き上げなどで民間病院の病床が5年ごとに10万床ずつ増えたからである。この間、例えばアメリカでは病床数はむしろ大きく減らされた。75年ごろには日本と同数だったのに、人口は日本の2倍にもかかわらず、病床数は今、半分程度である。

 日本は、病床数の割に医療スタッフが少ない。それが医師や看護師の激務を招き、患者から見れば、短時間診療や不親切に見える対応などにつながっている。スタッフが足りないから、予約しても待たされ、水準の低い医療を受けることになりかねない。

 解決策として、病床数を維持し、医療スタッフを増やす方法もある。しかし、現在の日本の病床数で欧米並みに医療スタッフを増やせば、医療費はおそらく5兆円以上、増える。

 しかも、僻地(へきち)はさておき、現状は都市部でさえ、看護師などが基準に満たない病院が維持されている。現在の病床数を維持することは、医療サービスが十分でない病院をも温存しかねない。病床を減らせば、1床当たりの診療報酬が増え、医療スタッフも増える。

 ただ、病院の配置には配慮が必要だ。現在は人口30万人程度の医療圏ごとに基準病床数を計算し、病床の適正配置を決めることになっている。が、現状追認の面が強い。適正な必要病床数を定め、都道府県知事が、保険医療機関を指定する機関と連携して配置をすることが必要だ。自治体に複数ある公的病院の整理統合も含め、個々の地域で考えるべきだろう。

 今は、診療報酬が病院よりも診療所で相対的に高いためか、診療所が急増している。これも適正配置の対象とすべきだ、という意見も出ている。(立教大学講師 磯部文雄)

(2007/10/18)