産経新聞社

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年金 わたしの年金、減らさない知恵(下)


 ■情報の少ない障害者

 障害年金は仕組みが複雑ですが、受給者が少ないためか、情報が少ないのが実情です。厚生年金を受けられる人は、年金の障害等級があれば、早い時期から年金の全額が受けられる特例もあります。特に、60代前半での選択は難しいので、注意が必要です。(寺田理恵)

 「私は年金の障害等級が3級なので、60歳から厚生年金が全額もらえたそうなんです。最近、知人から聞くまで知りませんでした。ずっと、病院で働いていましたが、障害年金のことは病院でも市役所でも分からない。まわりは健常者ばかり。障害者同士の交流がないまま、知らない人が多いのでは」

 前回、紹介した森田恵子さん(61)=仮名=は、こう怒る。

 森田さんの年齢で、老齢厚生年金の受給権があると、まず60歳から部分年金(報酬比例部分のみ)が支給される。しかし、障害等級3級以上で退職後なら、その年齢から、全額の「特別支給の老齢厚生年金」が受けられる特例がある。これは、65歳から受け取る年金の全額にあたる。森田さんの場合、障害年金より多かったはずだ。

 森田さんは58歳で障害等級の3級を受け、障害厚生年金を月に5万円受けていた。しかし、60歳前に届いた年金見込み額についての書類では、「60歳から月額3万円、61歳から8万円」としか書かれていなかったという。そのため、特例を知らずに来てしまったのだ。

 森田さんのように、障害があっても、会社勤めを続ける人もいる。厚生年金に加入すれば、老齢厚生年金の受給権も生じるが、64歳までは障害年金と、どちらかしか受給できない。

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 大阪府の橋本弘志さん(61)=仮名=の障害年金は約120万円。妻の千鶴子さん(57)=同=はそれを「特別支給の老齢厚生年金」に切り替えた方がいいかどうか、悩んでいる。

 弘志さんは、60歳から老齢厚生年金の一部が、63歳から全額が受けられる年齢。森田さん同様に特例の対象だからだ。

 千鶴子さん自身はパートで収入は約150万円。「障害年金は非課税ですが、老齢厚生年金は課税対象。主人を私のパート収入で配偶者控除の対象にできるのか心配です。主人が亡くなったら、私は遺族年金は受けられるのでしょうか。年金にはいろいろ種類があるので、迷ってしまいます」と千鶴子さん。

 『遺族年金、障害年金、離婚時の年金Q&A』の著者で、田中年金総合研究所所長の田中章二さんは「3級以上なら、年金の支給開始時から定額部分も含めた『特別支給の老齢厚生年金』が出ることは、意外に知られていない。条件を満たせば、加給年金と特別加算もある。『障害年金』か『特別支給の老齢厚生年金』で、多い方を選ぶ人がいるが、まず税金を計算する必要がある」とする。

 千鶴子さんが心配するように、障害年金は非課税だが、特別支給の老齢厚生年金は課税対象となるからだ。額によっては、弘志さんは「控除対象の配偶者」にならない。

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 65歳からは老齢基礎年金の支給が始まるので、選択のパターンが、また異なる。

 かつては「障害基礎年金+障害厚生年金」か「老齢基礎年金+老齢厚生年金」かの選択しかなかった。しかし、平成18年4月から、65歳以降は「障害基礎年金+老齢厚生年金」のパターンも選べるようになった。

 厚生年金の加入期間が長く、障害厚生年金より老齢厚生年金の方が高い人は増えてきた。老齢基礎年金より障害基礎年金が高いケースは多いから、組み合わせて年金額を担保し、障害のある人の就労を支援しようというものだ。

 「障害年金だけだと食べていけず、頑張って会社勤めをする人がいます。今までは保険料を払っても、老後にどちらかしかもらえなかった。この改正で助かった人は多い」と田中さん。

 障害厚生年金と老齢厚生年金は、どちらを選んでも、受給者である夫が亡くなった場合、妻には遺族厚生年金が支給される。条件を満たせば、中高齢寡婦加算もつく。

 田中さんは「法律では障害厚生年金の遺族給付は1級と2級のみ。しかし、実務上は3級でも、障害認定された病名と、死因の病名が同じなら、亡くなる直前に悪化したと判断され、受給できる」と、見落としがちな点を指摘。情報が手薄な現状について、「退院時に後遺症があっても、病院では障害年金に関する情報提供がなされない」とする。受給できるはずの年金を、きちんと受け取れるよう、病院や自治体などでの情報提供が求められる。

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【用語解説】障害年金

 障害基礎年金と障害厚生年金がある。障害基礎年金には1級と2級があり、障害が軽い2級で年額約80万円。高校生以下の子供がいる場合などには加算がある。

 厚生年金の被保険者には、障害厚生年金も上乗せで支給される。障害厚生年金には3級もあり、最低補償額は約60万円。1級と2級には、配偶者が条件を満たせば、加給年金約23万円も支給される。

(2007/10/18)