産経新聞社

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年金 わたしの年金 減らさない知恵 番外編

年金記録の訂正を担保するはずの年金時効特例法が、かえって混乱を招いている


 ■計算ミスは特例法の対象外

 年金の加入記録の訂正や一本化が、社会保険庁で進められています。加入期間が見つかって、記録が訂正されれば、5年の時効を超えても年金が受け取れるよう、「年金時効特例法」も整備されました。しかし、窓口の手違いなどで年金額が減ったのに、結局、救済されないケースもあるようです。「記録が正しいと、特例法の対象にならないのは、おかしい」との声が上がっています。(佐藤好美、永栄朋子)

 「えー、そっちが間違えたのになんで? と思いましたが、亡くなった人の年金をいつまでも言うのも、と思って…」

 大阪市の会社員、岩城恵子さん(46)=仮名=は「年金時効特例法」に釈然としないものを感じる。

 2年前、義母が75歳で亡くなった。社会保険事務所へ年金停止の手続きに行ったところ、義母には生前、年金の「振替加算」=16日付詳報=がまったく支払われていなかったことが分かった。

 窓口の担当者は、本人から振替加算の申請がなかったとした上で、「支払いに計算間違いがありました。すみません」と謝ったという。担当者は気の毒がりながらも、「法律で、5年分しかさかのぼって支給しないことになっている」と説明。後日、義父の通帳には5年分、約100万円が振り込まれた。振替加算は65歳からだから、時効で消滅した分も約100万円程度あった計算だ。

 光明が差したのは、今年夏。鳴り物入りで「年金時効特例法」が成立したからだ。社会保険庁のずさんな記録管理が原因で受け取れなかった年金については、時効を消滅させるというもの。

 ところが、岩城さんは未払い分が支払われるものと思い、義父の代理で社会保険事務所に行ったところ、受け取れずじまい。窓口の担当者の説明では、特例法の対象は記録もれの人で、義母は対象外とのことだった。

 社会保険庁によると、年金時効特例法は、あくまでも「年金記録」が訂正された人が対象。ここでいう「年金記録」とは加入記録のことで、加入期間や保険料の納付履歴を指す。一般には、それが年金額に直結するが、岩城さんの場合、加入記録にはミスはなかったというわけだ。問題は事務処理にあったと見られる。

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 「社会保険庁のいう『年金記録の訂正』が、どの範囲を指すのか、よく分からない」という声は多い。

 中部地方の信用金庫の職員で、社会保険労務士の資格を持つ大山勝さん=仮名=は「特例法成立を受けて、年金が復活する可能性のある人に、注意を促すチラシを作ったが、配布をやめた」ともらす。

 大山さんは13年前、当時、85歳だった自営業の男性の加入記録を見つけてあげたことがある。男性は戦後、企業に勤めていたが、その情報が年金の加入記録から抜け落ちていたのだ。

 戻ってきた年金は、時効のため5年分だけだったが、約180万円に上ったという。「60歳からだと、その4倍だから、700万円を超える。今回の特例法の対象だと思うが、万が一、違っていたらと思うと、探して伝えるのもためらう」という。

 この自営業の男性のように、行方不明だった加入記録が一本化されたケースは、「年金記録の訂正」にあたる。男性には約700万円超が支給されるはずで、仮に、男性が亡くなっていても、要件を満たす遺族が「未支給年金」を受け取れる。

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 社会保険庁によると、加入記録が訂正される人は、4パターンに大別される。まず、5000万件といわれる「宙に浮いた年金記録」の持ち主。オンライン上の記録はあるが、1人に統合されていなかった人だ。

 第2に、オンライン上に記録はないが、紙やマイクロフィルムなどで加入記録が見つかった人。第3が、オンライン上も紙のデータもないが、公的な領収書などが出てきて、記録が復活された人。第4が、公的な記録はないが、家計簿などから第三者委員会で保険料納付が認められた人だ。

 冒頭の岩城さんは社会保険事務所で「(当時、本人から)申請がなかった」と指摘されたと言う。しかし、自分で年金額を計算して、「振替加算がついていない」と指摘できる人は皆無だろう。義母は生前、「年金が少ない」と、社会保険事務所にも相談したといい、そのときは「間違いない」とも言われたという。

 急ごしらえで作られた特例法は、救済すべき人を救っていないのではないか。

 岩城さんは「義母のようにおかしいと思っても、窓口で『間違いない』と言われたら、それ以上は確かめようがない。記録漏れなら時効がなくなり、記録がある人は時効がなくならないなんておかしいと思います」と、話している。

(2007/10/19)