産経新聞社

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子育て支援 知恵絞る官民(中)企業も環境整備 

昼休み、敷地内の託児所で子供と遊ぶ男性社員=秋田県小坂町の「カミテ」


 少子化対策に熱心なのは国や自治体ばかりではありません。仕事と子育ての両立を目指し、職場環境の整備に力を入れる企業も増えています。背景にあるのは、従業員の活力や生産性の向上だけでなく、新規採用にも有利に働くとの判断。企業が用意する子育て支援策と、その現場を紹介します。(横内孝)

 「仕事への取り組み方が変わりましたね」

 秋田県小坂町のプレス用金型設計・製作、プレス加工会社「カミテ」に勤める下野令さん(27)は2年前、長女、由(ゆい)ちゃん(2)が生まれた後、20日間の育児休業を取った。

 妻は専業主婦だったが、出産が近づくにつれ、「育休を取得したい」という思いは募った。しかし、「主任の自分が抜けた穴はどうするのか」「休業中の所得は」と、なかなか踏ん切りがつかない。

 あと一歩が踏み出せない下野さんの背中を押したのは、子育ての先輩でもある上手康弘社長(45)だった。「一生に何回もあることじゃない。いい経験になるよ」

 今、下野さんは毎朝、由ちゃんと車で出勤、会社の託児所に預け、作業場に入る。昼食後は託児所に顔を出し、歯磨きを手伝ったり、一緒に遊んだり。

 育休前、残業は当たり前だったが、「今は、少しでも子供との時間がほしい」と早く帰る。仕事の段取りを工夫し、効率アップに努める日々だ。

 カミテは社員31人で、男女比はほぼ半々。平均年齢36歳の若い会社だ。上手社長は「時間とお金をかけて育ててきた社員に辞められるのは大きな損失」と、育児や介護との両立支援のため、短時間勤務制度も導入した。「会社が子育てを支援することで、従業員の集中力が上がり、品質の向上が見込める。双方のメリットは大きい」

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 資生堂は4月、カンガルースタッフ制度を導入した。百貨店などで働く同社のビューティーコンサルタント(BC)は、子供が小学校入学まで、「育児時間制度」で、1日最大2時間の勤務短縮ができる。その代替要員として、短時間勤務をする学生やOG、約500人を契約社員として採用した。

 BCの仕事は夕方以降がかき入れ時。「一番忙しい時に抜けるのは、気が引ける」「周りに迷惑をかける」。こんな葛藤(かっとう)もあり、育児のため、早く帰るのは現実にはほとんど不可能だった。BCと直接話して、育児時間を取る人が少ない実態を知った前田新造社長が導入を決めた。

 同社の支援は働く女性にとどまらない。2年前には、国の育児休業制度に上乗せする形で、2週間は100%有給とした。男性の育休取得者は、それまで1人しかいなかったが、この結果、33人になった。

 家族の関係を深めようと、損保ジャパンは今年8月、「ファミリーウイーク」と銘打ち、本社で2週間、“職場参観”を実施。社員とその家族計600人が参加した。

 東芝は17年、1日最大2時間の時間短縮を認める制度を導入した。翌年度にはさっそく、女性従業員の5%近い140人が活用。岩切貴乃・多様性推進部長は「制度はほぼ整った。あとは運用。これからは利用しやすくするための教育研修や意識啓発が重要」と話す。

 資生堂の山極清子・人事部次長は「両立支援のポイントは働き方の改革。長時間労働の是正にある」と話す。

 内閣府が今年2月にまとめた調査によると、子育て中の父親の7割が「仕事と育児に同じくらいかかわりたい」と答えている。しかし、現実はどうか−。30代、40代の男性正社員の5人に1人以上は週60時間以上働いている。

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 企業が両立支援を推進するきっかけになったのは、17年4月施行の「次世代育成支援対策推進法」。従業員301人以上の企業に、仕事と子育ての両立を推進する行動計画策定を義務づけ、300人以下の企業にも策定への努力目標が課せられた。国はさらに、今年4月から、行動計画の目標を達成した企業を認定する制度も始めた。

 福利厚生の一環とみられがちな両立支援だが、企業の多くが「経営戦略」(東芝)、「人材戦略」(資生堂)と言い切る。日本総合研究所の池本美香主任研究員は「企業の子育て支援は、生産性を高める施策の一つとなっている」と話す。

 こうした企業には共通項がある。企業のトップが従業員をコストではなく、財産と位置づけ、明確な戦略を打ち立てている点だ。

 もうひとつは支援制度を「絵に描いたもち」に終わらせていない点。徹底して従業員と対話し、かゆいところに手が届く制度を作り、研修や教育で繰り返し活用を勧める。各社の担当者は「画期的な打ち手などない。長期にわたって地道に取り組んでいくほかはない」と、口をそろえている。

(2007/10/23)