産経新聞社

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子育て支援 知恵絞る官民(下)広がる優待事業

スポーツ用品店で、「プレミアムパスポート」を提示して買い物をする松崎和代さんと娘たち=金沢市



 子供のいる世帯に、企業や商店が商品などを割引する「優待事業」が全国で広がっています。家計の負担を軽くし、地域に子育て支援の機運を高めるのが狙い。17年度に石川、奈良、愛媛3県で始まったのを皮切りに、今年度末には全都道府県の8割に当たる38府県が導入予定で、県域を越えたサービス提供も始まっています。(横内孝)

 金沢市の主婦、松崎和代さん(32)は、10歳を筆頭に4人の子を育てる。この日、市内のスポーツ用品店「SPORTS DEPO金沢店」で緑色のプレミアムパスポートを提示し、長男(8)の靴を買った。表示価格の5%引き。「カードがあると助かります。日帰りの温泉施設でも使えるので、よく利用します。使えるお店が増えると、もっとありがたいですね」

 優待事業で成功モデルとして知られるのが、石川県が平成18年に始めた「プレミアムパスポート事業」。対象は3人以上の多子世帯で、8月末現在、県内で約1800の店舗が協賛する。

 谷本正憲知事の大号令で検討が始まったのは17年。国が「次世代育成支援対策推進法」で自治体、企業の役割を定めた年だ。

 子育て世代が求める最大の施策は経済支援だと、県民意識調査で分かってはいたが、県の懐具合は豊かでない。企業の力を借り、地域ぐるみの子育て支援ができないか。結果、生まれたのが優待サービスだった。

 ヒントは「フランスが3人以上の子がいる世帯に支給している大家族カード」(森新一郎・前厚生政策課長)という。「企業にも、社会的評価が高まるなどのメリットがある」(重永将志・こども政策課長)とする。

 事業開始から2年足らずで、その輪は全国に広がった。沖縄県の担当者はブームについて、「ほとんどの自治体は今、財政的余裕がない。少ない予算で大きな効果が期待できる」と指摘する。

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 こうした優待事業は、青森県から鹿児島県まで、全国で広がる。検討中の北海道、秋田県、宮城県、沖縄県などを加えると、20年度末に40超の自治体が実施の見通しだ。

 子育て世帯にパスポートなどを配り、協賛店舗で商品を購入すると、割引、特典などが受けられる仕組み。対象家庭は当初、「3人以上の多子世帯」とする自治体が多かったが、18年度以降は「1人以上」が大半。対象年齢も18歳未満が多数を占め、山形県、茨城県、栃木県、京都府など、妊婦を対象にした動きも広がっている=表。

 優待内容は協賛の企業任せ。「全商品10%割引」「買い物スタンプ5倍」「住宅ローンの金利0.2%優遇」など、多彩だ。優待実施日も「毎日」というところや、毎月第3日曜日の「家庭の日」とするところなど、店舗によりまちまち。

 自治体は企業に店頭表示用のステッカーを送付。ホームページや冊子などでPRに協力したり、入札や融資の際に優遇する自治体もある。

 課題は、いかに協賛企業を増やすか。静岡県は協賛店が約4200店と最多だが、“第一の関門”とされる1000店に満たない自治体が少なくない。優待サービス導入をためらう、ある自治体の担当者は「協賛企業が地域によって偏り、どこに住んでいるかによって、住民がサービスを利用する機会が公平にならない恐れがあった」ともらす。

 協賛店舗の数は、住民サービスに直結するだけでなく、地域に子育てを支える機運がどれだけあるかのバロメーターでもある。旗振り役の自治体職員には、政策立案能力だけでなく、営業力が問われているといえそうだ。

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 県域を越えた連携も広がる。九州7県は昨年度、統一マークを使用し、相互利用を開始。今年11月には島根と鳥取の両県、来年度以降には石川と福井の両県が、お互いに優待を受けられるようにする。島根県の担当者は「一自治体では限界がある。もっと利便性を高める仕組みが必要」とする。

 四国4県のほか、「関西広域機構」(福井、徳島を加えた2府7県)も、連携の検討を始めた。

 勢いづく優待事業について、日本総合研究所の池本美香主任研究員は「事業所には一見、負担増に映るが、顧客が増えるメリットもあり、仕掛けとしては面白い。『日本社会は欧米に比べ、子育て家庭にやさしくない』との声をよく聞く。協賛の輪が広がることは、地域、社会全体に子育てに優しい雰囲気を醸成することにもなる」と話している。

(2007/10/24)