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社会保障これから 療養病床再編のメリット

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 高齢者が長期に入院する「介護療養病床」は2012年に廃止される。療養病床は現在、35万床。医療保険で賄われるタイプと、介護保険で賄われるタイプがある。いずれも、扱いは「病院」だから、医師が夜間も対応するということで、看護師も含めて手厚い配置がされている。

 療養病床の再編は、介護保険で賄われている病床を5年後に廃止し、老人保健施設などに転換してもらおうというものである。

 療養病床に現在、入院している人のおよそ半数は、入院医療ではなく、介護を必要としており、いわゆる「社会的入院」になっている実態に基づいた改革である。療養病床に入院している人の平均入院期間は2年弱。削減は昨年から6年かけて行われることで、現在の入院患者には迷惑をかけず、病床を介護施設などに転換する施策だ。

 これにより、仮に20万床が老人保健施設に転換されると、単純計算で最大2万人に上る看護師と医師を一般病院に振り向けられる。

 療養病床は患者100人に対して医師3人、看護師17人が必要。だが、医師1人、看護師9人で済む老人保健施設に転換されれば、医療スタッフの再配置が可能となる。スタッフが一般病院に移れば、医療の質が向上する意味合いもある。

 老人保健施設や特別養護老人ホームは、介護を専門とする施設だから、従来なら介護のために療養病床に入院していた患者を、これらの施設に任せることで、高齢者の状態は改善されるはずだ。

 療養病床には、栄養剤を胃に直接、流し込む「胃ろう」や、たんの吸引などのニーズのある人も多い。こうした処置に看護師を必要とする人のため、老人保健施設などへ看護師の増配も検討されている。ただ、家族ならできる行為を、医療行為に位置づけている現状の見直しを検討する必要もあろう。

 1970年代からの病床増は、医療保険による老人の入院増が理由だったが、その後、介護保険が創設され、今や地方自治体の判断で介護施設が運営でき、医療法人も介護の特定施設を整備できる。

 療養病床の削減で、介護病床の医療費や医療スタッフが削減できれば、急性期病院の人員を増やす下地もできる。さらに、病院で手術を受けたお年寄りに、食事介助をするスタッフなどを置くことができれば、急性期病院で胃ろうなどの手術が頻繁に行われるのを防ぐこともできよう。(立教大学講師 磯部文雄)

(2007/10/25)