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社会保障これから 技術に見合う報酬を

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 医療訴訟が増えていることは、医療の難しさを示している。原因の一つに、治療の難しさがある。きちんとした知識と技術のある医師や病院だけが、適正な医療サービスを提供するような体制を作っていく必要がある。

 現在の医学では、分からないことも多い。死期の近い患者の痛みの原因や、微熱が続く原因などが分からない場合も多い。医療行為には一定の確率でミスもあり得ることを、患者も理解しておく必要があろう。

 医師の技術不足によるミスを無くすには、専門医を厳しく認定することが考えられる。日本では、任意団体である各学会が専門医を認定する。しかし、十分な研修がなくても、専門医を名乗れるような学会もあるようだ。欧米では、国が何らかの形で関与する専門資格が多く、専門医の資格を取るのに、3〜5年かかる。また、外科系では実技試験を課す場合もある。

 専門医制度は場合によっては費用がかかる。教育費に加え、専門医の診療報酬をその分、高くする必要が出てくる。一方、専門外の医師から不適切な治療を受け、その後に別の医師にかかるよりは安いという意見もある。仕組みを設計する際に工夫が必要だろう。

 今の診療報酬は、地域性、医師の経験や技術による費用の差を設けていない。これは昔、日本医師会のある会長の判断で医師の中の分断を避けるという政治的な理由で決められたようだ。しかし、時代は変わっている。知識や技術の高い医師に、高い診療報酬が支払われることに、多くの人は異論なかろう。

 勤務医の収入は給与だから、病院では一般に、経験のある医師、技術の高い医師に多くの給与が支払われる。しかし、医師が皆、優秀な病院で治療を受けても、そうでない病院で治療を受けても、今は同じ治療法なら、患者負担は同じだ。技術に違いがあるのに、病院に入る診療報酬が同じなのは不公平だろう。

 専門医制度を厳しくして、その分、診療報酬を高くすれば、病院の評価、医師の技術の評価としても有効だろう。そして、何よりも患者は質の高い医療を受けられる。

 そもそも、保険医療費は、保険料と税金という公金だから、保険医や医療法人役員の所得を公表することも一案ではないだろうか。そのうえで専門性の高い、知識・技術の高い医者に確実に高い報酬が行く仕組みを作ることが必要だろう。

(立教大学講師 磯部文雄)

(2007/11/08)