産経新聞社

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社会保障これから 株式会社の病院経営

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 経営効率化のためか、「株式会社に病院経営を認めるべきだ」との主張がある。

 病院経営は現在、自治体病院などを除き、6割以上を医療法人が行っている。ただ、医療法人も、病院を建てれば、銀行に借金を返す。利息を付けて借金を返す行為は、医療法人に禁止されている“配当”と、実質的に変わらない。営利法人である「株式会社」と同じだから、株式会社にも経営をさせよ、という主張である。

 だが、仮に株式会社が経営すれば、借金返済に加え、株主に配当する努力をしなければならないから、営利を求める動機は医療法人以上に強くなり、節減に反する。

 むしろ、今後の日本の医療の方向としては、株式会社化よりも、本来の意味での「非営利法人」が、医療経営を担う方向を目指すべきではないか。

 保険診療から得た余剰金は現在、医療に再投資することだけが認められている。医療法人には、出資者への配当は禁止されている。しかし、「出資持ち分あり」の医療法人を脱退・解散するときには配当できる。

 「本来の意味」での非営利法人というのは、脱退時なども、土地や建物などの資産が理事長など、個人に帰属しないような仕組みだ。親族だけで運営するのも、本来の非営利法人とはいえない。

 なぜ、非営利が大切なのか。まず、保険医療には、保険料や税金などの公的資金が多く入っている。しかも、医療サービスには際限がない。医師が意図すれば、情報の独占も可能だから、営利を目的にすると、過剰診療になる危険性がある。加えて、たとえ病院長が亡くなっても、病院が倒れるリスクはなくさなければならないからだ。海外でも、非営利の病院が大勢だ。

 これまでも、「特定医療法人」「特別医療法人」など、非営利法人が医療機関を持つ制度が作られてきた。直近の法改正では、「持ち分あり」の医療法人を新たに作ることは認められなくなった。これも、同じ方向を目指している。日本の医療費は原則、治療や薬剤費を積み上げる「出来高制」。医療機関が決める費用が、いわば保証されるわけだから、非営利の考え方がなじむと思われる。しかし、実際には、特別医療法人などはごく少数派だ。

 医療法人の理事など、役員の所得も公開して、医療スタッフへの配分など、医療費が適正に使われていることを示すべきだ。それが医療全体の力になる。(立教大学講師 磯部文雄)

(2007/11/15)