産経新聞社

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保育園に入れない!(1)難しい年度途中の入所


 ■25カ所が「空きなし」

 保育園に入れない待機児童の問題が解消しません。国は、待機児童ゼロ作戦は成功し、一部地域では解消したとさえ主張します。しかし、東京や大阪などの大都市圏では、働く母親が依然として保育園探しに苦労しています。4回にわたり最新の待機児童問題をお伝えします。(清水麻子)

 「泣きました…。25カ所もの保育園に空きがないと断られたんですから」

 昨年12月に長女を出産し、1年間の育児休業を終えて今月、職場に復帰したばかりの大沢まな子さん(38)=東京都、仮名=はこの秋の保育園探しの苦労を振り返る。

 希望は、自宅から比較的近い3カ所の認可公立園。しかし、すべての園で0歳児の枠はなかった。

 仕方なく、子供を家庭で預かってくれる「保育ママ」や、東京都が助成する「東京都認証保育所」、その他の認可外保育施設を20カ所以上探し歩いた。が、すべて「満員」と断られた。

 職場復帰は3カ月後。あせった。わらをもすがる思いで区役所の担当課を訪れた。しかし、対応は冷たかった。

 「ベビーシッターを探してください」「仕方なくお仕事を辞めている方もいるようです」。「年度途中の入所はまず無理なんですよ。出産直後に申し込めば、今年の4月から入園できたのに」とも言われたという。

 しかし、4月入園だと、長女は生後3カ月。ようやく首が据わったばかりだ。大沢さんは「育児休業は1年、取れるはずなのに。保育園に入れないのは、私のせいなの?」

 平成17年には育児・介護休業法が改正され、認可保育園が満員で入れないなど、特別の事情があれば、育児休業を1年半まで延ばせるようになった。年度半ばで出産しても、1年半休んで翌新年度になれば、保育園に入園しやすいからだ。

 大沢さんも、育児休業を1年3カ月に延長し、来年4月に子供を入園させることも考えた。しかし、職場で1年以上、育児休業をとった先輩はいない。仮に延長しても、1歳児クラスの若干名の新規募集に、絶対に入れる保証はない。

 「世間は働く母親に冷たいと思います」と、大沢さんは肩を落とす。

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 それでも、大沢さんが住む区は、東京都で待機者が少ない区のひとつ。それなのに、この状態だから、他地域は推して知るべしだ。

 待機者が全国最多の大阪市、2位の横浜市、3位の神戸市では、一斉募集を行う4月でも、入園は難しい。

 政府は平成14年、待機児童ゼロ作戦を開始。16年度までの3年間に、受け入れを約15万人増やした。その後も「子ども・子育て応援プラン」を作り、19年度まで集中的に受け入れ児童を拡大してきた。

 しかし、待機児童は微減にとどまり、19年4月時点での待機児童は東京や大阪などの大都市圏を中心に約1万7900人にのぼる。

 厚生労働省は待機児童が減らない理由について「保育所の受け入れ枠の増加以上に働く女性が増えているから」と説明する。

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 大沢さんは結局、通勤ルートと逆方向へバスで30分かかる認可外保育施設を見つけて、子供を預けることにした。認可外だが、保育士は親切、熱心で安心したという。

 しかし、認可外保育施設の質は一定しない。熱心な施設がある一方で、国の保育士配置基準を満たさないような施設があるのも事実だ。

 厚生労働省の平成17年度の調べでは、都道府県が認可外施設に立ち入り調査をしたうちの約6割は、子供への健康管理や安全確保面で指導監督基準に適合しておらず、死亡事故の発生率も、認可施設より高かった。

 しかも、保育料は大半の家庭で、認可施設を利用するよりも高い。待機児の約7割は3歳未満だから、手厚い保護が求められる幼児を、質が担保されない施設に預けざるを得ないのが現状だ。

 ところが、認可保育施設の建設には、1施設あたり約2億円が必要といわれる。さらに、地価が高い大都市圏。苦しい財政事情のなかで、新設を渋る自治体は多い。ある自治体の保育担当者は「あと数年もすれば、子供は減る。だから、今はやり過ごしたい」と打ち明ける。

 子供の発達問題に詳しい恵泉女学園大学の大日向雅美教授は「認可保育施設の整備には限界があります」と、新設が難しいことは認めながらも、「認可外保育施設の保育水準を、認可施設並みに向上させることが必要です。一方で、保育施設の整備以外に、短時間勤務が認められるなど、職場の環境づくりも急務です」と指摘している。

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【用語解説】認可保育施設と認可外保育施設

 認可保育施設は、国が定めた基準に基づいて、市区町村や社会福祉法人などが運営する。児童福祉施設で、共働きや母子世帯など、「保育に欠ける」子供を預かる。市区町村が保護者の「保育に欠ける」度合いをみて、入園を決める。認可外保育施設は、これ以外の施設の総称で、自治体の独自基準を満たした「東京都認証保育所」なども含まれる。深夜までの延長保育など、より柔軟なサービスを提供している。入園は保護者が直接、希望施設に申し込む。

(2007/12/11)