産経新聞社

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社会保障これから 在宅の終末ケア、高まる需要

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 かつては自宅で亡くなるのが当たり前の時代もあったが、自宅で亡くなる人の数は1975〜80年ごろに病院で亡くなる人の数と割合が逆転した。今や自宅で亡くなる人は全体の10%程度になっている。

 「家族に迷惑をかけたくない」と、高齢者の半分は在宅での死を望まない、という調査もある。しかし、それは病院での死を望んでいることを意味しないのではないか。穏やかで自然な死は、現在の多くの病院では得にくいように思われる。

 高齢患者の入院では、あらかじめ本人や家族の終末ケアへの考えを、聞いておく試みが始められているという。具体的に問題になるのは、本人が食べられなくなったらどうするか、人工呼吸器はつけるのか、心肺マッサージはするのか、などだ。多額の医療費をかけ、患者が望まない医療を行うのは、多くの人の本意ではあるまい。

 自宅に帰った場合に、24時間態勢で往診に応じる「在宅療養支援診療所」の整備は急務だ。しかし、実際に対応できる所はまだ多くない。一般の開業医でも、入院前も退院後も患者にかかわり、訪問看護、訪問介護と連携を取って在宅ケアを目指してもらえるなら、24時間対応でなくても、在宅療養はある程度、可能だろう。ただ、その場合は、夜間の緊急対応がないことを、本人や家族が納得していることが条件になる。

 最近では、複数の医師がチームを組み、在宅を専門に行うような診療所も始まっている。医師が24時間、1人で患者を診ると、医師もしばしば、私生活を犠牲にすることになる。当番を決めてネットワーク化することで、医師の生活と在宅ケアが共存できれば、可能性は広がる。

 現在、在宅で介護サービスを受けている人は250万人。うち、要介護4と5の人が36万人いる。現在の介護認定がそのままなら、20年後には、介護サービスを受ける人が450万人前後。要介護4と5の人が60万〜90万人の予測がある。これに対応できる在宅の医療・介護サービスを考えておく必要がある。

 在宅でできる医療の範囲も広がっている。糖尿病の自己注射、在宅での酸素療法なども普及している。ここ数年、サービス供給量も増えている。自宅で快適な生活を続けたい患者にとっては、在宅生活の大きな支えとなろう。

(立教大学講師 磯部文雄)

(2007/12/13)