産経新聞社

ゆうゆうLife

保育園に入れない!(4)認定こども園

預かり保育「ピッコロルーム」の子供たち。お迎えを待つ間、制服を私服に替え、リラックスして過ごす=大阪府堺市の「常磐会短期大学付属泉丘幼稚園・いずみがおか園」



 ■広がり期待、安全に配慮

 待機児童解消の“切り札”として注目されるのが、幼稚園と保育園の機能を併せ持つ「認定こども園」です。定員割れが続く幼稚園に、保育園を併設すれば、認可保育園を新設するより効率的に受け入れ枠を増やせます。働く親から「これで入園の選択肢が広がれば」と期待が高まる一方で、子供を長時間、預かる保育園機能の安全性も求められています。(清水麻子)

 「ママ、お仕事行くからね。今日も楽しんでね」。大阪府堺市でパート看護師として働く沢田美枝子さん=仮名=は毎朝、幼稚園児の長女(4)と保育園児の長男(1)を認定こども園「常磐会短期大学付属泉丘幼稚園・いずみがおか園」に車で送り届けて出勤する。

 「忙しいので、2人一緒の園で助かります。働いていても、子供には3歳から幼児教育を受けさせたいと思っていたので、ここに通わせてもらえてうれしいです」と沢田さん。

 幼稚園は3歳児以上が対象。だから、働く母親が子供を幼稚園に通わせたい場合、下の子と別の園になってしまう。しかし、ここなら送迎は2人一緒で済む。

 幼稚園と保育園の機能を併せ持つ「認定こども園」には、ほかにもさまざまなメリットがある。保育園の場合、母親が仕事を辞めれば、子供は通えなくなる。しかし、こども園なら、親のライフスタイルが変わっても、子供の生活は変わらない。幼稚園児が赤ちゃんと交流できる利点も指摘されている。

 「泉丘幼稚園」の渡辺芳子園長は「入園希望者が相次いでいます。0−1歳児は少し空きがありますが、ほかの年齢では、来年度の新規入園は難しいのが現状です」と、うれしい悲鳴をあげる。

 しかし、少子化で、約10年前までは子供がなかなか集まらず、定員割れが続いていた。「体を作るため、登下校時に『歩く』ことを勧め、送迎の園バスを取り入れなかったことも、不便と受け取られたのかもしれません」と渡辺園長は言う。

 平成10年、働く母親のニーズを満たしつつ、子供の数も確保しようと、幼稚園終了後の園児を預かる「ピッコロルーム」を開始。16年には堺市が独自に助成する認証保育園「いずみがおか園」を設置し、0−2歳児を受け入れた。それを今年度、認可保育園に格上げし、「こども園」に移行させた。

                  ◆◇◆

 共働きの増加で、保育園の待機児童が200万人に上る一方、幼稚園の児童数はこの10年で8万人以上減少している。

 「泉丘幼稚園」のように、預かり保育や0歳児保育など、保育園機能を持たせる園が相次いでいる。厚生労働省によると、平成18年時点で幼稚園と保育園が連携する施設は1000施設ほどあるという。

 こうした動きに後押しされる形で、厚生労働省は昨年、幼稚園と保育園機能を持つ「認定こども園」推進に舵(かじ)を切った。認定は都道府県に任されており、認可外保育園を組み込むことも可能。現在までに105カ所が認定された。平成20年度以降、2000カ所にまで増えるとみられる。

                  ◆◇◆

 だが、認定こども園には課題もある。

 全国でも待機児童が多い堺市は昨年、待機児童解消の目玉として、積極的に認定こども園増を打ち出した。しかし、現在までに認定したのは「泉丘幼稚園・いずみがおか園」のみ。大阪府内にも、認定を受けた園はほかにない。

 「待機児童が多い地域では、受け皿の幼稚園がなく、逆に、受け皿の幼稚園がある地域では、待機児童が少ないなど、地域でばらつきがあり、待機児解消にまでいたっていない」(市保育課)

 また、認可外保育園を組み込むのも可能なため、保育の質を懸念する声もある。

 白梅学園大学の無藤隆教授(発達心理学)は「認定こども園が増える過程で、国の認可基準を満たさない施設が増えることも予想される。保育の質が担保されないこともありえます」とし、都道府県が子供の安全を考えた独自基準を設けるべきだとする。

 幼稚園が、働く母親のニーズにどこまで対応できるかも未知数だ。文部科学省によると、現在、7割の幼稚園が預かり保育を実施しているが、春、夏、冬、すべての長期休業に対応しきれない園も4分の1に達する。新たに人件費などが必要になるからだ。認定こども園が保育に対応するには、こうした費用の確保も懸案だ。

 無藤教授は「国が待機児解消の目玉として認定こども園を増やすつもりなら、財政措置が必要です。認可外保育園しか組み込めない幼稚園には、調理室を設置する費用を出すなどで国の認可保育園に移行させる誘導策が必要です」と話している。=おわり

(2007/12/14)