産経新聞社

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自分で作るケアプラン(下)脱“お任せ”

分からないことは、サービス事業所や役所の窓口で質問する。ケアプランの自己作成は、自身の介護予防にも役立つという声が多い(写真はイメージです)


 ■申請で身につく知識

 ケアプランは利用者が作ることも、介護保険法で認められていますが、それを支援する体制は、自治体によって千差万別。自治体間の温度差を探りました。(永栄朋子)

 千葉県の主婦、染宮裕子さん(52)は認知症の父親と、パーキンソン病で要介護5の母親を5年間介護してきた。「父は動けるし、出先で暴力を振るったりして大変で…」

 複数の人を介護する多重介護。だが、介護保険のサービスは週に2回のデイサービスだけで、ショートステイは一度も利用したことがなかった。ケアマネに頼んでも、「取れなかった」と断られたからだ。「忙しいケアマネさんに迷惑はかけられない。自分より困っている人がいるのだろうと、あきらめてました」

 ある日、テレビでケアプランが自己作成できると知り、試しに父親のかかりつけ病院でショートの利用を相談すると、その場で予約できた。「こんなに簡単なことを、人に頼り切りだったかと思うと、情けなくって…」

 すぐに自治体の窓口に出向き、自己作成を申し出た。だが、「テレビでやっていたからと言って簡単にはできませんよ。検討します」と、体よく“門前払い”されてしまった。

 ケアプランの自己作成は、介護保険法でも認められている。自治体が相談にも乗ることになっているが、熱心さには温度差がある。

 ケアプランの自己作成を進めるマイケアプラン研究会(京都市)が昨春、近畿2府4県を調査したところ、回答した80市のうち、44市が「自己作成は制度的には可能だが、難しいので勧められない」と考えていた。「自己作成が基本なので、広報し、支援していきたい」と答えた市は5市に過ぎなかった。

 自己作成の手引を用意していない市は62市に上り、相談にあたる職員を配置していない市も42市あった。同研究会代表世話人で京都光華女子大の小國英夫教授は「自己作成を始める際、自治体の窓口で担当者を説得することが必要なケースも少なくない」と指摘する。

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 東京都府中市は、要支援1と要支援2の「予防介護」の人には自己作成を勧める。現在、約800人のうち、約150人が自己作成。窓口では新規の申請者の2人に1人が自己作成を選ぶ。

 当初は、ケアマネがこうした、比較的元気な人のプランも立てていた。しかし、その結果、「介護保険のことはケアマネに聞かなければならない」という“お任せ”の風潮が生まれたという。

 「市役所から通知が来ると、封も切らずに『市役所から手紙がきた』とケアマネに電話をかけてしまう。現場は対応に振り回され、『何でも代わりにすることが、本当に自立支援なの?』と、悩みが生じました」(福祉保健部高齢者支援課の芦川伊智郎さん)

 ところが、自己作成を選べるようにしたところ、できることは自分でする利用者が格段に増えたという。生活援助などの利用は減少、ケアマネも負担が減り、一石二鳥。芦川さんは「自分でプランを考えるから、認知症予防にもなっていると思う」と話す。

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 しかし、積極的に推進しない自治体もある。神奈川県藤沢市は自己作成者用に手引を用意し、疑問点があればケアマネ向け相談会にも参加できるようにしている。だが、積極的にPRはしない。個人とケアマネでは、情報量に圧倒的な差があることを懸念しているためだ。担当者は「老化の進行をできる限りとどめるプランを作ることがケアマネの専門性とすれば、ケアプランは本来、ケアマネが立てるものだと思う」と話す。

 昨日紹介した堀部喜久子さんが住む兵庫県明石市も同じ。堀部さん自身は「市役所は協力的」と感謝するが、担当者は「職員もケアマネ資格があるわけではないので、専門的な質問には答えられない。提出された書類のチェックにも時間がかかるので、人数が増えれば対応できない」とする。

 自治体には、自己作成を進めた場合、介護給付費が増えるのではとの懸念もあるようだ。生活援助サービスが多く、利用者が楽な“わがままプラン”、必要のないサービスまで頼む“欲張りプラン”になるのを心配する担当者も。だが、この点について、府中市の芦川さんは「むしろ逆。お年寄りは、ケアマネが用意したプランを、時間割のようにこなしているのが現実。実際にはそんなにサービスを必要としない人が多かった」と話す。

 冒頭の染宮さんは、いったんは自己作成を断られたが、ケアプランを立てたい一心でヘルパー資格を取得。介護保険について学び、再度、窓口を訪ね、担当者の協力を取り付けた。結局、両親の施設入所で、ケアプランを立てることはなかったが、得た知識が老後に役立つと感じる。「親の世代は子供に依存しても仕方ないかもしれませんが、私は年を取っても、2人の子供や自治体になるべく迷惑をかけずにやっていきたいと思っています」と話している。

(2008/01/18)