産経新聞社

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低学年 放課後の居場所(1)マンモス学童

お昼はカレー。配ぜんに30分以上かかり、食事開始まで延々と待つ子も=昨年12月、さいたま市の「三橋小学童保育の会あすなろクラブ」



 ■すし詰めでイライラ

 保育園時代は安全が確保されていたのに、子供が小学校に上がったとたん、放課後の居場所に困る−。共働き家庭は仕事と子育てが両立できない「小1の壁」に突き当たります。子供たちの放課後の居場所「学童保育」は質もまちまちで、狭いスペースに子供がすし詰め状態のところも。特に、1人で過ごさせるには心もとない低学年の子を持つ親にとって、子供が授業後、安全に過ごせる場所の確保は急務になっています。4回にわたり考えます。(清水麻子)

 「ただいま」。さいたま市にある民間学童保育「三橋小学童保育の会あすなろクラブ」。冬休みを間近に控えたある日、学校を終えた子供たちが続々と集まってきた。

 1年生から6年生まで95人が登録する“マンモス学童”。築30年の古い病院寮を改造して作られた1階約260平方メートルは、10分ほどで子供たちに埋め尽くされた。

 民間施設としては広いが、常時60〜70人がいるので、昼食時などは満員電車並みの人口密度。少し動くと、隣の子供と肩がぶつかり合う。「うざったい」「死ね」と、乱暴な叫び声も飛び交う。

 指導員の小沢明子さんは「劣悪な環境で、子供はいらいらしています。ケンカ、ぶつかりあいはしょっちゅうです」と打ち明ける。

 指導員は、正規職員とパートをあわせ、日に6人体制で子供をみるが、目が行き届かない。子供同士のトラブルに気がつかず、後で親から指摘されて初めて分かったこともあったという。

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 学童保育は平成19年現在、全国に約1万7000カ所。1カ所あたりの適正規模は、指導員の目が行き届く40人程度といわれる。

 しかし、全国学童保育連絡協議会の平成19年の調査では、40人以上の施設が全体の半数。71人以上の超大規模施設も1割あった。17年のアンケート調査では、大規模施設で「ささいなことでケンカになる」「とげとげしくなる」など、子供たちの情緒が不安定になっている状況が浮き彫りになった。

 背景には、利用希望者の急増に、学童保育施設の整備が追いついていない事情がある。

 厚生労働省の国民生活基礎調査(平成18年)によると、末子に6歳〜8歳の子供がいる母親の6割が働いている。

 ところが、全国学童保育連絡協議会などの調べでは、保育園の卒園児43万人に対して、学童保育に入った新1年生は26万人。卒園児の6割しか学童保育に入れないのが現状だ。同会の真田祐・事務局次長は「定員が決まっている施設では待機児童が増え、定員が決まっていない施設でどんどん受け入れが進み、大規模施設が増えてしまった」と残念がる。

 学童保育はかつて、「小1の壁」にぶつかった母親らが費用を出し合い、古いアパートや民家などを借り切り、自主運営したのがスタート。その後、自治体が補助金を出すなど、官民で設置の動きが広がってきた。

 厚生労働省が児童福祉法を改正し、学童保育を法的に位置づけたのは、やっと平成9年。設置は自治体の「努力義務」で、国は設置基準や運営基準を定めてこなかった。自治体任せが、大規模化に拍車をかけたともいえる。

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 しかし、少子化対策で学童保育の質向上が求められ、厚生労働省は昨年、方針を転換、初のガイドラインを策定した。71人以上の大規模施設は、3年間の経過措置の後、補助金が打ち切られる。規模を適正化する方針が決まった後、全国で大規模施設を分割する動きが出始めている。 

 トラブル続きだった「あすなろクラブ」も今年1月、2つに分割され、再スタートした。元の場所で受け入れる子供は57人。残りの38人は、近くの民家に新設した第二学童保育に移った。山本佳彦指導員は、分割後の様子について「あんなにあったケンカがが全くなくなり、泣く子も皆無。毎日、誰かしらを注意するため聞こえていた指導員の怒鳴り声も、ないに等しい。ようやく普通の状態になった」と笑顔をみせる。

 劣悪な環境を改善するには、大規模学童の分割は不可欠。しかし、資金不足で分割できない学童も多いという。

 山本指導員によると、「あすなろ会」が分割できたのは、さいたま市が第二学童となる民家を借りる資金の一部、備品整備費などを補助したからだという。だが、分割誘導策を打つ自治体は少ない。

 児童福祉が専門の淑徳大学の柏女霊峰教授は「学童保育はぎりぎりのお金で運営しているところが多く、自助努力には限界がある。国は分割を希望する自治体や学童保育に補助金を多くつけるなどで、学童保育の質の向上を誘導すべきだ」と提案している。

(2008/01/28)