産経新聞社

ゆうゆうLife

低学年放課後の居場所(2)全児童対策事業 

校庭で遊ぶ「わくわくプラザ」の子供を見守るスタッフ=川崎市立宮崎台小学校の校庭


 ■行き届かぬ指導員の目

 文部科学省と厚生労働省は今年度、小学校の空き教室などを利用し、親の就労にかかわらず、すべての小学生が放課後に遊べる居場所づくりでを始めました。しかし、家が留守になる共働きや一人親家庭からは「子供の生活の場が失われ、安心して働けない」と、評判は今ひとつです。(清水麻子)

 「子供は時間をつぶすだけのために、行っているような感じでした…」

 神奈川県川崎市に住む加藤美由紀さん(43)=仮名=は2年前、小学1年生の長男を同市の全児童対策事業「わくわくプラザ」に通わせるのをやめた。スタッフの子供への関わりが薄いと感じたからだ。

 川崎市は5年前、国の施策を先取りする形で全児童対策事業を市内の全114小学校で始めた。学童保育の待機児解消が目的で、同市はこれを機に学童保育への補助を打ち切った。登録すれば、市内の子供は誰でも午後6時まで利用できる。利用者は1施設平均約50人だが、来るのは自由だから、顔ぶれも人数も一定しない。

 加藤さんの長男が利用した場所は、利用者が1日約80人もいた。スタッフは子供が入って1カ月以上たっても、顔と名前が一致しない。ドッジボールで一緒に遊ぶこともなく、子供同士が仲間意識を持つ手助けもしていないように見えた。

 「子供もつまらなそうでした。たくさんの子でガヤガヤし、別のクラスや異なる学年の子供と遊び始めるきっかけもつかめない。スタッフは拡声器で子供に声をかけていました」

 仕事中も子供のことが気にかかるようになり、結局、民間の学童保育に移らせた。見学で一歩足を踏み入れたとたん、わくわくとまったく違う雰囲気を感じたからだ。「指導員の方が読み聞かせをしていたのですが、みんな静かに聞き入っていて、楽しそうでした。静かにすべきときは静かにできる子に育っていることを感じました」

 補助金がないため、無料のわくわくと違って、費用負担は月額2万5000円。だが、子供の将来を思うと高くはなかった。

 それから2年。スタッフが子供同士の関係作りを働きかけるせいか、長男には最近、1、2年生の“お兄さん”としての責任感が芽生えているという。「子供の成長を見越して接してくれる指導員がいるので、安心して働けます」と加藤さんはうれしそうだ。

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 わくわくについては、「いろいろな友達と遊べる」と評価する声がある一方で、初対面の子と交流せずに、一人遊びをする子も目立つという。

 スタッフも留守家庭の子に特別な配慮はしない。市はわくわくを「遊び場であって、保育の場ではない」(青少年育成課)と位置づけているからだ。しかし、共働きや1人親家庭の子供はスタッフから声をかけられなくても、ほかに行き場所がない。

 全国学童保育連絡協議会の真田祐事務局次長は「どんな子がくるか分からず、スタッフも固定しないのでは、子供は心を開けない。こういう不安定な場所が留守家庭の子の放課後の居場所になるのは好ましくない」と、情緒面への悪影響を心配する。

 安全面への懸念もある。スタッフは1カ所あたり平均4人だが、正規職員は原則1人で、ほかはパート。高校生をシフトに組む場所もある。

 スタートした平成15年、わくわくでは通院が必要な事故が約250件と多発した。小学校1年生の男児が2階から転落し、頭の骨を折る事故も。スタッフが1階に降りたすきのことだった。市は事故後、安全管理の徹底を指示。目が届く所で遊ばせる態勢を取り、緊急時のマニュアル作りや出欠確認を義務づけた。

 自己は18年度に3分の2程度になったが、それでも骨折は38件。川崎市は「学校や以前の学童保育と比べても、発生率は高くないはず」とするが、保護者の間には懸念がくすぶる。

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 全児童を対象にした放課後事業は他の自治体でも増えている。横浜市「放課後キッズクラブ」「はまっ子ふれあいスクール」▽大阪市「児童いきいき放課後事業」▽東京都世田谷区「新BOP」▽品川区「すまいるスクール」▽江戸川区「すくすくスクール」など。国の後押しもあり、今後も広がりそうだ。

 しかし、保護者には川崎市同様の心配も広がる。江戸川区のすくすくスクールに通う柴田優実ちゃん(当時小学校1年生)=仮名=は遊んでいてけがをした。しかし、家庭への連絡が行き届かず、病院に行くのが遅れ、顔に傷跡が残ってしまった。母親は「職員数は決まっていても、子供の数が一定しないから、目が届かない。安全管理が不十分なのは納得できません」とする。

 「保育園を考える親の会」の普光院亜紀代表は待機児童が減る効果などを評価しつつ、「留守家庭の子供は疲れていたり、熱が出そうでも、家に帰れない。心身を休められる『第2の家』の機能を確保してほしい」と配慮を求めている。

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【用語解説】全児童対策事業

 親の就労にかかわらず、すべての子供に放課後の居場所を提供する自治体の事業。地域の人の参加を得て、学習やスポーツなどに取り組む。

(2008/01/29)