産経新聞社

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低学年放課後の居場所(3)もう1人の家族


 ■指導員の質向上急務

 子供が楽しみながら安心して放課後を過ごすには、学童保育に質の高い指導員が配置される必要があります。しかし、実際は経験が豊富で、トラブルにも対応できる力量がある人は少なく、親には心もとない状況です。一方で、指導員の質が子供の発達に影響するという指摘もあり、質の向上が急務となっています。(清水麻子)

 「ママ、どうして先生がこんなに変わっていくの? せっかく仲良くなったのに悲しいよ…」

 神奈川県横須賀市の会社員、斉藤信子さん(38)=仮名=は、涙で目を赤くはらした長女(当時小学2年生)を前に、やるせない思いでいっぱいになったという。

 長女が通う民間の学童保育では、3年間で7人の指導員が辞めた。「こんな状態では不安」と、子供に通うのをやめさせる親もいた。

 斉藤さんは「指導員は娘にとって『もう1人の家族』。慕っていた方が次々、辞めていくのは、かわいそうでした。若い指導員が『子供の気持ちを酌むのが難しく、言うことをきかない』とおっしゃるので、話し合いましたが、とても悩んでいて引き留められませんでした」。

 横須賀市学童保育指導員会の調査(平成18年)では、指導員会に加盟する市内の25施設で、1年未満でやめた指導員は39人もいた。同会の永松範子さんは「指導員に応募してくる方は『子供が好きだから』『子育て経験があるから』と、おっしゃるのですが、何日か働くと、給与が安い割にきつい仕事だとわかり、転職を考えるようです」と残念がる。

 指導員の仕事は、保育中の安全管理、宿題や遊びの補助に限らない。子供の悩みや相談に乗ったり、親と背景に踏み込んで対応するのも役割だ。子供の発達を継続して見守ることが必要だが、実際には入れ替わりが激しい。全国学童保育連絡協議会の調査(平成19年度)では、指導員の半数が経験1〜3年目。いじめや子供同士のトラブルなどで解決法が見いだせず、辞めていく若い指導員も目立つという。

 こうした現状にもかかわらず、同じ調査によると、指導員研修を行っている自治体は全体の27・8%。3分の1に過ぎなかった。

 冒頭の横須賀市は年に2回、指導員研修を行っている。しかし、同市子育て支援課では「ボランティア、正規職員など、指導員の立場や質に応じた研修ができるわけではない。満足のいくものとはいえないかもしれない」と認め、指導員が短期で辞めてしまう現状などについては「民間学童には補助金を出しているが、中身については関知しない」という。民間任せの自治体の方針も、若い指導員の定着を難しくする一因だ。

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 定着率が低い原因には、給与などの労働条件もある。同会の調べでは、7割がパートや嘱託などの非正規職員で、平均年収は236万円。半数は年収150万円未満で昇級もなく、アルバイトを掛け持ちする人も多い。7割以上の指導員が保育士や教師などの資格があるにもかかわらず、だ。

 公営の学童保育は財政事情が厳しく、年々、非正規職員が増える。非正規雇用では、契約更新に期間を限る「雇い止め」を設ける自治体も2割ある。

 「ある男性指導員は結婚して、子供が生まれ、生活できないからと辞めていきました。熱心に子供の成長を考える、いい人材だったのに、もったいない…」

 5年の「雇い止め」がある東京都西東京市で公設民営施設の役員を務める古谷健太さんは「子供の成長に大きな影響力をもつ指導員に、期間の限られた雇用はそぐわない。単純労働とは区別すべきです」と、継続して働ける環境整備を求めている。

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 学童保育の急増も、指導員の質を下げる要因の一つだ。

 学童保育数はこの10年間でほぼ倍増。受け入れ人数は増えたが、経験を考慮せず、指導員に採用する施設も増えた。女児などにわいせつ目的で志願するボランティアを採用時に見抜けないケースまであるという。

 児童健全育成推進財団の野中賢治企画調査室長は約30年、学童保育や児童館の指導員を務めた。野中室長は指導員の質の低下による、子供の発達への悪影響を心配する。「子供は、大人との信頼関係をベースに、友人との遊びを重ねるなかで思春期の問題を乗り切る力を身につける。放課後、一緒に過ごす指導員の質は子供の発達に影響を与える。質の向上は急務です」

 一方で、質の改善には保護者の協力も欠かせない。「保育サービスを受けるだけでは、指導員の子供とのかかわり方は分からない。学童保育に足を運び、子供が普段、どんな指導員や友人と、どう時間を過ごしているのかを見て、指導員と子育ての考え方を共有してほしい」と話している。

(2008/01/30)