産経新聞社

ゆうゆうLife

低学年放課後の居場所(4)親の経済力で安全格差

学童保育ビジネスに参入した企業(★はオプション料金が必要)


 ■公のサービス充実を

 学童保育の受け皿が不足するなか、企業の参入が増えています。専用車で送迎し、「安全性」の付加価値を提供したり、残業に対応できるよう時間外サービスも展開し、費用も高め。「選択肢が増えた」と歓迎する人がいる一方で、経済的に利用が困難な家庭もあります。社会の格差が広がるなか、親の経済力で子供の放課後の安全に差が出ないよう、公のサービス充実を求める声が高まっています。(清水麻子)

 ピンポーン。インターホンが鳴り、ドアが開くと、近くの有名私立小学校に通う女児2人が指導員と一緒に帰ってきた。「おかえりなさい」。スタッフが優しい笑顔で出迎えた。

 大使館が立ち並ぶ東京・南麻布の高級住宅街に、学童保育「環優舎」はある。約85平方メートルの室内には、ソファやピアノが置かれ、子供たちは放課後、思い思いの時間を過ごす。「利用する子供は低学年なので、送迎の要望は高いですね」と経営者の吉川まりえさんは言う。

 博物館や美術館見学に出かけたり、英会話や習字を習う日もあるが、行事は子供が疲れない程度にとどめ、自宅のようにくつろげる空間を提供する。

 サービスもさまざま。体操着などの洗濯・乾燥や、残業などでお迎えが遅くなる日には入浴もさせ、仮眠もさせてくれる。

 その分、費用は高く、週5日利用で月額21万円。現在、母親が外資系企業や官庁などに勤める共働き家庭5世帯が利用するが、子供はみな女の子で、一人っ子だという。

                  ◆◇◆

 首都圏を中心に、企業の学童保育への参入が目立つ。いずれも、子供が放課後を安全に、充実して過ごせるプログラムを提供している。すし詰めの学童、それでも増加する待機児の問題などを背景に、今後も利用者は増えるとみられる。

 だが、月額利用料は高額で、利用できるのは高い収入がある家庭に限られる。収入が少ない一人親家庭や、子育て費用がかさむ多子家庭では、こうしたサービスを利用するのは困難だ。

 全国学童保育連絡協議会の調査(平成19年)によると、学童保育の利用料は公立公営で月平均約4500円、父母会運営では同約9700円かかる。所得の低い家庭などを対象に費用の減免制度を設ける自治体は半数。学童保育を切実に必要とする家庭が利用できない事態にすらなっている。

 学童保育の質が一定でない場合、子供が我慢するか、学童保育をやめて家で留守番をするしかない。塾や水泳などの習い事で居場所を確保する家庭もあるが、それにも費用がかかる。

 5人の子供を育てながら、一家の大黒柱として働く岸田明美さん(36)=神奈川県在住、仮名=は5年前、小学校1年生の長男が学童保育を嫌がった。長男は結局、放課後を1人で過ごすようになったが、岸田さんは常に不安だったという。

 長男が嫌がったのは、学童が外遊び禁止だったから。「外で遊びたい」と訴えても、指導員に「お金をやるから静かにしなさい」と言われたり、「来たくないなら、来なくていい」と突き放されたりしたという。

 「近所の人が時折、私の携帯に電話をくれて、『今、公園で遊んでいるよ』とか、様子を伝えてくれたから助かりました。でも、事故にでもあっていたらと思うと…」

 放課後の子供の安全が、親の経済力に左右されるのは望ましくない。しかし、実際には、こうした格差は広がりつつある。

                  ◆◇◆

 公的な学童保育の充実を望む声は高い。

 「民間サービスをあえて買わなくても、満足いくサービスを提供するのが自治体の役割ではないでしょうか」

 そう話すのは、東京都内でも待機児が多い板橋区に住む会社員、武藤洋子さん(39)=仮名=だ。長女は3年生になる春、公設学童から退所を迫られた。「新1年生がたくさん入ってくる」というのが理由だった。

 しかし、放課後1人にさせるのは心もとない。週2日は地区のバレーボールクラブに通わせたが、残り3日は自由にさせるしかなく、心配だったという。「企業が運営する学童保育がある地域に引っ越した知人もいました。でも、この地域に住み続けたい私たちに、選択肢はありませんでした」

 白梅学園大学の汐見稔幸学長は「格差社会を背景に、公的な学童保育の必要性はさらに強まっている。日本は子供や家庭、保育にかける費用がOECD加盟国で一番低い。少子化を克服したフランス並みにサービスを充実させるには、さらに10兆円の予算が必要だといわれる。消費税を上げてでも、この分野にかけるお金を増やさないと、子供の良い発達や少子化克服は望めない」と話している。

(2008/01/31)