産経新聞社

ゆうゆうLife

社会保障これから 現行年金は社会保険 

(写真はイメージです)


 テレビなどで年金問題のコメントを聞いていると、日本の公的年金制度が民間の個人年金保険と違い、賦課方式の社会保険であることが理解されていないのでは、と思うことがある。受け取り時に掛け金と利子が戻ってくるという前提で話されていることもあるからである。

 今の公的年金は長生きや病気や事故のリスクに対応するための保険で、根底には国民の連帯がある。積み立ての概念がないから、「掛け捨て」と言ってもいい。

 年金の支給額は、平均寿命まで生きた場合、自身が納めた保険料よりも多くなる。ただ、65歳前に死亡したら、たとえ25年以上、保険料を払っていても、生計を同じくしていた遺族などがいなければ、一銭も支給されない。

 早世した人が払い込んだ保険料は、長生きをしている赤の他人に支払われる。100歳を超えても、公的年金はインフレなどに対応しつつ支給される。長生きをすればするほど、支給額は増える。自身が払い込んだ額を大幅に超えることも、当然ある。

 また、被保険者が障害を負えば障害年金が、一家の大黒柱が病気や事故で死亡した場合は、扶養されていた家族に遺族年金が支払われる。納めた保険料より、ずっと多い額が年金で支払われることも珍しくない。このように、予測できない事故や病気、長生きの可能性に対応できることが、公的年金が保険機能を発揮している所以である。

 一方、民間保険は強制加入でないから、被保険者数を維持する確証がない。このため、加入者の保険料を原資とし、その運用で収支が見合う設計をせざるを得ない。つまり、積み立て方式なのである。

 公的年金でも、受給者が少なかった時代に払い込まれ、給付されなかった保険料は積み立てられている。積立金は現在、150兆円。運用利子は今の受給者の保険料を抑制している。

 こうした世代内と世代間の支え合いが、公的年金の重要な機能である。現在の日本の社会保障給付費90兆円のうち、年金給付は47兆円。山口、島根、岡山、高知、愛媛などでは、県民所得の10%を超える。65歳以上の世帯の60%を超える家庭では、こうした年金給付と恩給だけが収入を支えている。(立教大学講師 磯部文雄)

(2008/02/27)