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年金 年金質問箱−2階建てってなんだろう(上)


 複雑な年金制度。最近は「消えた年金」問題もあり、ゆうゆうLifeにも、読者から多くの質問が寄せられています。今回は、そんな年金への疑問のうち、「2階建て」に関する質問をまとめてお答えします。(佐久間修志)

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 【Q】厚生年金が65歳で減ったように見えますが?

 「なんで、65歳になると急に厚生年金が減るの?」

 神奈川県内に住む主婦、山内聡子さん(68)=仮名=は65歳になる直前、社会保険庁から来た通知を見て、驚きを隠せなかった。

 65歳からの年金額を知らせる裁定通知書。そこには「老齢基礎年金79万1000円」「老齢厚生年金34万1600円」(当時年額)と記されていた。

 老齢基礎年金は初めての支給。総額は増えたものの、「ショックだったのは老齢厚生年金の額」。それまで支給されていた額より20万円以上も下がっていたためだ。

 山内さんは高校を卒業して18歳で就職。32歳で商店を経営する夫(68)と結婚し、退職。その後は夫婦で国民年金に加入し、月々の保険料をこつこつ納めてきた。60歳からは、結婚前に勤めていたことから、厚生年金を受けていた。

 商店は現在も続けているが、「主人が体を動かしている方がいいというので、できる範囲で続けている」程度。隔月で支払われる年金は貴重な収入源だ。それだけに、「厚生年金が減ったのはショックだった」という。

 「国民年金の分は増えるとしても、なぜ厚生年金が減らされなくてはいけないのでしょうか。何か腑に落ちません…」

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 【A】65歳前の厚生年金は、一部が老齢基礎として支給されます

 公的年金の支給は原則65歳からだが、誕生日が昭和36年4月1日までの男性と、41年4月1日までの女性は65歳前に、厚生年金が「特別支給」される。昭和14年生まれの山内さんは60歳から、55万4100円(当時年額)を受けていた。

 山内さんが疑問に思ったのは、その特別支給の厚生年金より、65歳からの「老齢厚生年金」が低かったことだ。

 疑問を解く手助けになるのが、「年金の2階建て」という考え方だ。

 社保庁は「2階建て」の考え方について、「1階は“加入期間”に応じて払われる生活保障分、2階は“支払額”に応じた報酬比例部分」と説明する。

 ただ、一般的には「1階=国民年金」「2階=厚生・共済年金」と解釈される傾向が強い。

 社会保険労務士の中尾幸村さんも、「『2階建て』は基本的な考え方だが、『国民年金』『厚生年金』という名称に惑わされ、誤解もある。また、社保庁からの通知に図表や金額の内訳が示されないことも誤解の遠因になっている」と指摘する。

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 山内さんは「厚生年金は2階だから、65歳以降の厚生年金に引き継ぎ支給されるのでは」と考えていた。だが、特別支給は厚生年金だが、実は「1階」が存在する。

 特別支給は「定額部分」と「報酬比例部分」に分かれる=図。定額部分は「厚生年金に入っていた期間、国民年金を納めたと仮定した場合の支給額」。いわば基礎年金的な役目で、65歳以降は国民年金へ引き継がれる。65歳以降、厚生年金に引き継がれるのは「2階」の報酬比例部分だけだ。

 山内さんの場合、厚生年金55万4100円のうち、定額部分は32万1865円(B)で、これが65歳以降に老齢基礎年金に切り替わる。報酬比例部分は23万2262円(A)で、これが65歳以降の老齢厚生年金の基本的な支給額(C)になる(100円未満四捨五入)。

 ではなぜ、社保庁の通知では「老齢厚生年金」は23万2262円でなく、34万1600円なのか−。それは、この約34万円にも「1階」があるためだ。

 山内さんは18歳から働き始めた。国民年金は本来20歳からだから、基礎年金部分の保険料を多く支払っている計算になる。余分に払った基礎年金部分が、65歳から厚生年金に「経過的加算」として上乗せされる。それが、山内さんの場合、10万9301円になる(D)。厚生年金は合計34万1600円(C+D)となるわけだ。

 金額的には「減った」ように見えたが、「2階建て」を正しく理解することで、1階、2階がそれぞれ形を変えて引き継がれていることが分かる。

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(2008/03/10)