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年金 年金質問箱−2階建てってなんだろう(中) 


 年金の「2階建て」の考え方で、紛らわしいのが遺族年金です。遺族年金を受け取る場合、1階の基礎年金部分が支払われないケースが多いほか、年金番号が遺族の国民年金番号と違うため、「私の年金保険料は掛け捨てなの?」といった混乱を招きがちです。今回は遺族年金の仕組みについて考えます。(佐久間修志)

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 【Q】遺族厚生年金を受けています。私の払った保険料はどこへ行くんですか?

 「1人が受け取れる年金は1つだから、遺族年金を受けている人は、ほかの年金を受けることはできません」

 山梨県内に住む宇野敦子さん(54)=仮名=は昨年2月、職場を退職する際に事務担当者から、そう告げられた。すでに宇野さんは夫の遺族年金を受けており、「じゃあ、私が納めてきた年金はどうなるの、と不安になった」という。

 宇野さんが病気で夫を亡くしたのは、平成17年6月。夫とは24歳で結婚、1男2女をもうけた。だが、3人の子供は成人し、さあこれからというときに、夫の病気が悪化した。

 ショックを受けた宇野さんは、遺族年金の受給をきっかけに、退職を決意。退職手続きを進め、国民年金にも加入した。そんな折、冒頭の言葉を事務担当者から聞き、ほどなく訪れた社会保険事務所でも同様の説明を受けたという。

 忙しい子育て中も働き、今も国民年金を支払い続ける宇野さんだが、あの事務担当者の言葉が心に引っかかっている。「もし、事務員さんの話が事実なら、私が国民年金を支払い続けることに意味があるのか、と考えてしまいます」

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 【A】65歳以降で受ける基礎年金になります

 「1人1年金だから、遺族年金以外は受けられない」。事務担当者の言葉は間違いではないが、今後も「受けられない」かと言えば、答えは「ノー」だ。前回同様、「2階建て」の考え方で説明がつく。

 遺族年金は、1階が「遺族基礎年金」、2階が「遺族厚生年金」といった2階建て。ただ、遺族基礎年金は原則、子供全員が18歳になった翌年度からは支給されない。

 これについて、社会保険庁は「1階の基礎年金部分は、受給者にどのくらい生活費を稼ぐ機会があるかという“稼得能力”に応じて、保障度合いが決まる。老齢基礎年金も高齢による稼得能力の低下という観点で支給されている」と説明する。

 遺族基礎年金が、子供が18歳になった年度末までしか支給されないのは、翌年度からは子育ての負担も軽くなり、稼得能力が上がる−。そんな理屈からだ。

 ただ、女性も40歳以上となると、やはり稼得能力は下がる。この場合、夫が厚生年金に加入していたなら、基礎部分の代替として「中高齢寡婦加算」が支給される=図。宇野さんもこのケースにあたる。

 宇野さん自身が老齢基礎年金の受給権を得られるのは65歳。この時点で中高齢寡婦加算は停止になる。仮に2階は今まで通り、遺族厚生年金を受け取るとしても、1階は自身の老齢基礎年金が受け取れるからだ。すなわち、「老齢基礎年金+遺族厚生年金」という2階建てになる。

 「1人1年金だから、遺族年金と老齢基礎年金は同時に受け取れないのでは?」。こうした誤解は多いが、1階部分と2階部分に異なる種類の年金を選択することは可能だ。

 社保庁は「『1人1年金』は『1階部分に1年金。2階部分に1年金』というのが正しい理解」と解説する。

 また、宇野さんのように昭和31年4月1日以前生まれの人では、図の通り、1階が老齢基礎年金になっても、中高齢寡婦加算の一部が経過措置として支給される。

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 一定期間働いてきた宇野さんは65歳以降、厚生年金の受給権も手にするため、2階部分についても、いくつかの計算式がある。

 計算式は3つ。2階を(1)遺族厚生年金のまま(2)自分の老齢厚生年金(3)夫の老齢厚生年金の半分(=遺族厚生年金の3分の2)と自分の老齢厚生年金の半分の合計−のいずれかだ。

 平成19年4月からは、(1)〜(3)のうち、金額が最大になるものを選択。(1)か(3)を選択した場合、「自分の老齢厚生年金+最大値との差額」として支給される。

 社会保険労務士の中尾幸村さんは「(1)は専業主婦など、妻の老齢厚生年金額が低い場合。(2)は共働きなどで、妻の老齢厚生年金が高い場合。(3)は妻の老齢厚生年金が夫の老齢厚生年金よりは低いが、夫の遺族厚生年金よりは高い場合−が対象になる」と解説する。

 「65歳になる直前に、社会保険事務所でそれぞれの年金額を確認のうえ、より受給額が高くなるパターンを選んでみては」。中尾さんは、そうアドバイスしている。

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(2008/03/11)