産経新聞社

ゆうゆうLife

社会保障これから 年金の税方式化への疑念


 基礎年金を全額、税方式にするのは、不適当だと思う。第1に、これまで長年にわたって保険料を納めてきた人の扱いである。

 保険料を納めてこなかった人にも、税で年金を給付すれば、納めてきた人には上乗せ給付をする必要がある。しかし、積立金を使っても、財源としては不十分だろう。

 これまで納めてこなかった人に、その分給付しないなら、税方式の完全施行は現在20歳の人が65歳になる、ずっと先の話をしていることになる。

 第2は財源の問題だ。仮に財源を消費税で賄うなら、消費税率で5%分が必要と試算されている。負担増は、今納めている年金保険料が減ることで本当に納得されるのか。

 特に、事業主の保険料負担は、今でさえフランスなどの半分以下なのに、税方式では全く無くなってしまう。これまで事業主が負担していた分は自発的に社員に還元したり、労使に任せるというが、それでよいのだろうか。

 必要な消費税は現在は5%と試算されているが、高齢化すれば、料率はさらに上がる。その際には、税金を上げるか、年金を下げるかの議論になる。増税できなければ、給付を下げるしかない。それは、そのときどきの政治状況にゆだねられる。生活の基盤である年金が予測できない額になることも欠点だろう。

 第3に、基礎年金を税でまかなえば、いわば生活保護を支給するのと同じになる。生活保護を受けている人は現在1%。将来、人口の40%になるかもしれない65歳以上の高齢者全員に、生活保護以上の給付を全額税金で行うことは容易に想像できない。

 確かに、欧州では近年、年金制度に無拠出の最低保証給付が併存する国が多くなってきている。ただ、資力調査が行われていたり、80歳以上になってから支給される点にも注意が必要だ。

 保険料の未払いをなくす利点はあるが、制度を改革するときには生活保護との関係、働くことへの国民感情なども考慮しなければならない。税方式案はこうした移行に伴う負の部分の検討が十分でない。積み立て方式への移行も一時議論された。費用が新たに200兆円必要になるなどから、議論自体が消えたが、年金の財源問題でそうした経験が生かされていないのは、残念と言うほかない。(立教大学講師 磯部文雄)

(2008/03/12)