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年金 年金質問箱−「2階建て」ってなんだろう(下) 


 昨日は「1人1年金」の考え方を説明しました。ただ、異なる年金の組み合わせを選べることは分かっても、中には選択が複雑になるケースもあります。今回は、障害厚生年金が遺族年金に切り替わる場合の考え方を取り上げます。(佐久間修志)

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 【Q】障害の夫が亡くなったら、障害厚生年金は打ち切りですか? 

 「不謹慎な質問とは分かっているのですが、主人が亡くなった場合、私の年金はどうなるのでしょうか…」。そんな質問をくれたのは、大阪府内に住む両角あかりさん(49)=仮名。

 聞けば事情は深刻だ。両角さんの夫(49)は、17年前の平成3年末、末梢(まつしよう)神経がまひする病気にかかり、半年後には障害者1級の認定を受けた。現在も車椅子(いす)生活を余儀なくされている。

 夫は障害認定を受けた後、勤め先を退職。現在は障害年金を受けながら非常勤で働く。ただ、発病前と比べて、収入は大幅にダウン。貯蓄も増やせない状況だ。

 両角さんに子供は2人で、大学に通う長女は20歳。発病前に加入していた学資保険や奨学金を活用。どうにか学費を捻出(ねんしゅつ)しているという。

 ただ、「長女の高校卒業で、年金額が減ったのは、家計に大きな痛手だった」と両角さん。高校生の長男も17歳。再来年度の支給額は再び20万円以上減る。

 加えて、両角さん自身もリウマチの持病があり、働くことがままならない。将来が見えない不安を抱えている。

 「それでも、夫の障害年金があるから、今の生活が維持できている」と感じる両角さん。「主人まで亡くなったら、3人の生活はどうなってしまうのか。私が病気をおして働くしかないのでしょうか…」。不安は募る一方だという。

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 【A】遺族厚生年金として支給されます

 33歳で障害を負った両角さんの夫には、現時点で障害基礎年金121万8000円(年額、長男の加算含む)、障害厚生年金86万6900円(同、妻の加給年金含む)と、ほかの年金と比較して手厚い保障となっている。

 社会保険庁は「障害年金は、遺族年金や老齢年金と違って、障害者であることに伴う、日常生活上の出費を考慮して、通常の基礎年金よりも給付額が割り増しで設定されている」と説明する。

 従って、夫が亡くなった際には「障害者であることによる出費はなくなる」(同庁)と判断され、割り増しのない遺族年金に切り替わる。

 前回説明した通り、子が18歳になった翌年度からは、遺族基礎年金が支給されないが、妻が40歳以上なら、代わって中高齢寡婦加算が支給される。両角さんもこのケースにあたる。

 複雑なのは、「2階」だ。遺族厚生年金の考え方は、「ご主人が生きていたら受け取れたはずの金額の4分の3」(同庁)。夫が障害年金を受給しながら働いていた両角さんには、(イ)夫の障害厚生年金(割り増し分除く)の4分の3(ロ)夫の老齢厚生年金の4分の3−という2つの選択肢がある。

 ただ、両角さんの夫は33歳の若さで障害を負ったため、障害厚生年金は厚生年金を25年間納めたとみなされた額が支給されている。障害を負って以降は年収が下がっているため、(ロ)の年金額が高くなる可能性があるのは、働いた期間が合計25年を超えた場合のみ。それ以外は(イ)を選択するのが有利だ。

 65歳以降は、連載(中)で紹介したケースと同様で、1階が老齢基礎年金に移行し、2階は三者択一。今後も働けない両角さんは引き続き、遺族厚生年金を受けるのが、最も支給額が多くなりそうだ。

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 ちなみに、夫が65歳以降も健在なら、長男の加算分は減るが、夫は1階を引き続き、手厚い障害基礎年金で受け取る。2階は老齢厚生年金と障害厚生年金のいずれか有利な方を選ぶことになる。

 また、昭和33年4月生まれの両角さんは、61歳から老齢厚生年金の報酬比例部分を2階として受けられる。結婚前に13カ月間、働いた経験が反映されるはずだ。

 両角さんは将来への不安が強いなか、「私自身の国民年金保険料は毎月、欠かさず納めています」という。65歳になれば、その分が自身の老齢基礎年金として受け取れることに加えて、夫が受けていた加給年金の一部3万3500円が支給される。夫が健在のまま65歳まで乗り切れば、一家の年金収入は大幅に増えそうだ。

 両角さんには、長男の高校卒業で障害基礎年金が減ることで、夫まで亡くなったらどうなるのか、と不安が高まっていた。しかし、障害厚生年金は、夫に万が一のことがあれば、「障害」に着目した割り増しはなくなるものの、形を変えて両角さんの年金として引き継がれる。

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(2008/03/12)