産経新聞社

ゆうゆうLife

社会保障これから 医薬品被害どう防ぐか


 社会保障で今後重要な点をまとめれば、医療では過剰病床の削減、とりわけ療養病床自体の介護施設への転換。介護では、住民によるサービスの選択だろう。基礎年金を全額税方式とするより、新たな負担は医療や介護に使うべきだ。

 医薬品などの被害をどう防ぐかも重要だ。人工血液、iPS細胞を使った先端医療など、技術の高度化で登場してくるものは、副作用についても未知の部分が多い。それだけに、審査体制を手厚くする必要がある。

 医薬品や食品に不具合があった場合の対応も重要だ。一般論としては、疑わしきは罰(回収)すべし、といえる。

 数千人の被害者が出た0−157事件では、政府が疑わしい原因としてカイワレダイコンを公表した。しかし、何について、どのような行動を期待したか明確でない、として司法判断で最終的に国の違法行為とされた。

 判決は事後に明らかになった事実を前提にしており、原因が明確でない時点で被害の拡大を防ぐ難しさに思い至っていないように見える。原因が特定できるまで待っていては手遅れになる可能性もある。だから、幅広に公表し、網をかけるべきだ。それが後で違法とされるなら、行政官は身動きが取れない。

 医薬品は必要な治療のために承認されているので、原因が明確でない場合、回収判断は食品以上に難しい。

 では、どうすればいいのか。不信の連鎖を断ち切るためには、どういう場合に、政府が何をすべきかを法律で明確にすることも必要なのではないか。回収命令や原因推定の公表は基準を作り、ある程度機械的に行う。それが結果的に誤っていたら、国が一定額の補償を行う。行政官個人の判断に委ねていては、未知なるものへの対応には限界がある。

 さらに、厚生労働省の危機管理のための体制は、見直しが求められる。人員と予算の投下により、危機情報を管理し、全書類を電子化して共有する。個々の職員は持たない。事務引き継ぎのマニュアル化も必要だ。これまでの組織定員査定や予算シーリングの枠組みの例外とする政治決断が不可欠だ。

(立教大学講師 磯部文雄)

 =おわり

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 来週からは旅行作家、立道和子さんの「年金で海外暮らし」をお送りします。

(2008/03/19)