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年金 保険料の納付−手軽に漏れなく(中)学生納付特例


 ■学内で手続き可能に

 20歳になれば、学生も国民年金に加入する義務があります。収入のない学生の間は、保険料納付が猶予される「学生納付特例制度」もありますが、「手続きが面倒くさい」などの声も少なくありません。しかし、手続きを怠り、“未納”状態で事故に遭って障害を負えば、無年金になりかねません。社会保険庁は制度の普及を目指し、学生が校内で納付特例を申請できる仕組みを4月にスタートさせます。(横内孝)

 宇都宮大学の峰キャンパス(栃木県宇都宮市)に17日、栃木社会保険事務局の職員が訪れた。学校が指定を受ければ、キャンパス内で学生納付特例の手続き代行ができる新しい制度の説明をするためだ。「県内の大学はすべて歩くつもり。直接お会いして、協力を呼びかけたい」と事務局職員。

 宇大の学務部は「事務負担は増えるが、学生へのサービス向上につながる。今後、前向きに検討する」と応じた。農学部2年の田中芳和さん(22)は「昨年11月、市役所に行って手続きをした。学校で申請を受け付けてくれれば、いつでも行けるので便利」と話す。

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 学生納付特例は平成12年に創設された。大学や短大、専門学校などの学生で、前年度の所得が118万円以下なら、国民年金の保険料納付が10年間猶予される制度。ただし、住民登録をしている市区町村に毎年申請し、承認を得る必要がある。

 猶予期間は、年金を受け取るための資格期間(25年)には算入されるが、10年以内に保険料を追納しなければ、未納と同様、将来の年金額は減る。追納も3年以上前の分には加算金がかかるので、注意が必要だ。

 保険料を納めず、学生納付特例も申請しない場合、学生は未納、未加入とみなされ、その間に不慮の事故などで障害を負っても、障害基礎年金などが支給されないリスクがある。

 学生納付特例の利用者は17年度に、全国で176万人と年々増加している。しかし、一方で「手続きが面倒」「役所に行くのがおっくう」などの声も依然、少なくない。国はより申請しやすい環境を整えようと、大学などの教育施設を「学生納付特例事務法人」として順次指定。学校が申請手続きを代行できるようにする。

 学校は学生から申請書を受け付け、管理簿を作成。社会保険事務局または社会保険事務所に提出する。ただ、代行事務を行うかどうかは学校判断。代行する学校には一部を除き、国から1件当たり30円の手数料が支払われる。

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 「便利になる」

 学生の反応は好評だ。過去に4度、特例申請をしたという東大大学院修士課程1年の西尾邦明さん(24)は「役所に行くには、予定を調整しないといけない。学校なら、昼休みや授業の合間にも行ける。気付く機会も増えると思う」と話す。早大3年の東山佳朗さん(23)=仮名=は現在、未納状態。「すごくラクになる。仲間うちでも話題になるし、そうなれば、身近に感じられる」と期待をかける。

 しかし、学生の期待とは裏腹に、学校側の検討は始まったばかり。地方社会保険事務局が新制度の具体的な説明に入ったのは今月。2月下旬の文部科学省の通知で初めて知ったという学校も多い。

 ほとんどの学校が「学生の利便性が増し、サービス向上につながる」と一定の理解を示すが、代行事務で生じる事務負担と責任の重さに、“即断”をためらうところも。ある4年生大学は「手数料の多寡よりも、年金の事務手続きとなると、学生の一生にかかわる問題。『受け付けた』『受け付けない』など、書類の受理をめぐってトラブルが起きないともかぎらない」と二の足を踏む。

 3月中旬現在、「学内で検討している」(慶應義塾大学)、「これから検討に入る」(明治大学)など、態度を決めかねているところが多い。「学生第一主義が本学のモットー。学生サービスの一環として実施したい」(神戸夙川学院大学)、「やる方向で検討する」(青森中央学院大学)と、代行を明言するのは少数派だ。

 国は19年度の特例申請で卒業予定年月を把握できた学生には、20年度以降は国から届くはがきに必要事項を記入し返信するだけで申請が完了する仕組みも導入する。

 社会保険労務士の井上義教さんは「無年金者を出さないという意味では、大学にも責任がある。最終的には自己責任だが、紙(申請書)一枚で人生が変わる場合がある。そういう可能性がある以上、学生の身近な存在である学校が手続きを代行すべきだ」と話している。

(2008/03/25)