産経新聞社

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年金 年金質問箱


 【Q】加給年金は60歳で条件を満たさないともらえませんか?

 【A】再請求ができます

 配偶者のいる厚生年金加入者は、加給年金が出るかどうかで年金額が大きく変わります。ただ、支給条件は細かく決められており、そのひとつが「配偶者の年収は850万円未満」というもの。読者から、「年金請求時の60歳で満たさないとだめでしょうか」と、疑問が寄せられています。(寺田理恵)

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 横浜市の中原知子さん(60)=仮名=は昨年、60歳になり、社会保険事務所で年金請求の手続きをした。夫は2歳年下。夫の所得証明書を添えて提出すると、窓口で「ご主人の年収が850万円以上あるので、あなたは加給年金を受けられません」と言われた。

 配偶者のいる人を対象とする加給年金は本来、妻の年金が少ない家庭を想定したものだが、夫婦とも厚生年金加入20年以上でも、受給できることがある。その場合は先に年金を受け始める人が請求する。

 知子さんはその場の流れで、「(夫の)収入がこの年金の受給権発生当時以降おおむね5年以内に850万円未満となる見込みがありますか」という請求書の項目では「いいえ」に丸を付けた。

 ところが、手続きの1カ月後、夫は勤務先との雇用契約を更新できず、収入はダウン。結局、その年の年収は850万円を下回った。「このような場合でも、やっぱり加給年金は受けられないのでしょうか」

 納得できない知子さんは今年3月、再度、夫の所得証明書を社会保険事務所に持参した。窓口では「ご主人と勤務先との間で『契約を更新しない』という書面があれば、その書面を所得証明書に添えて申し立てをすればいいですよ」などと助言を受けた。社会保険事務所では、年収ダウンが一時的なものではなく、勤務形態が変化したことを確認したかったようだ。

 知子さんは「最初に請求に行ったときは、詳しい説明もないまま、『いいえ』に丸を付けました。それが、いけなかったのでしょうか。でも、請求のときに年収が850万円以上あっても、5年先も下がらないなんて、公務員的な発想では。民間企業では、突然のリストラや倒産だって、起こるかもしれません」と疑問を抱く。

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 加給年金を受給するには、配偶者の生計を維持していることが必要。その条件は(1)生計が同一(2)配偶者の年収が850万円未満。年収が850万円以上あっても、おおむね5年以内に下がると確認されれば、生計維持関係を認められる。その判断は、定額部分の支給開始時点で行われる。

 社会保険庁によると、年収が下がる見込みがあると認められるのは、サラリーマンなら定年退職や降給など。就業規則で定められているか、通例や前例がある場合だ。

 リストラや倒産など、予測できない理由で収入が下がるケースもあるが、年金は受給開始時の生活補償をするもので、それ以後に起きる人生のリスクに対応するものではないからだ。

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 社会保険労務士の田中章二・田中年金総合研究所所長は「請求書の『おおむね5年以内に850万円未満となる見込みがありますか』という項目で、『いいえ』に丸をつけても、再請求ができます。中原さんは、加給年金受給前にご主人の年収が850万円未満になっており、おそらく受給できると思います。年収850万円未満の受給要件は、遺族年金にもあり、配偶者を亡くしたときに条件を満たす必要があります」と指摘している。

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 ■加給年金の仕組み

 加給年金 厚生年金の加入期間が原則20年以上の人が、「65歳未満の配偶者」「高校生以下の子」「20歳未満で障害等級1、2級の子」の生計を維持している場合に支給される。金額は、配偶者だけの場合で約23万円。受給者の年齢に応じた配偶者特別加算があり、昭和18年4月2日以後に生まれた人では計約40万円。配偶者が老齢基礎年金を受けると、加給年金は打ち切られ、配偶者に振替加算がつく。ただし、配偶者が厚生年金に原則、20年以上加入した場合は、配偶者が年金を受け始めると加給年金はストップし、振替加算はつかない。

(2008/05/16)