産経新聞社

ゆうゆうLife

年金で海外暮らし 海外では住居は買わない

異国の地でみた美しい夕焼け


 「1泊6200円で2人分の朝食付きなんて、いったいどんなホテルなの?」。不審な顔つきで知人が聞く。頼まれた私が、安手の宿を予約したと思ったらしい。「4つ星よ」。一瞬ムッとして、答えがブッキラボーになる。チェンマイは観光地なのにホテル代が安く、ハイシーズンでもこんな値段で泊まれるのだ。ただし、これは現地で買ったバウチャーの値段。

 ホテルは一般に、現地旅行社で予約するのが安い。現地に友人や知人がいれば、彼らに頼むと楽だが、いなければ、日本で5泊ほど、ホテルのバウチャーを「JHC」や「アップルワールド」などの海外ホテル予約サイトで買っていく。後は現地で自分で手配するのが得策だ。1カ月程度の滞在では、泊まるのは通常、ホテルかホリデーアパート(ホテルコンドミニアムとも言う)などに限られる。

 どちらも短期で借りられるが、長期に借りる部屋と違って値段は当然、割高になる。チェンマイには1泊数百円で泊まれるゲストハウスなどが多く、1カ月程度の宿泊でも5000バーツ(約1万6000円)ほどで借りられるアパートもある。

 以前は西洋の若者が多かったこういう宿に、最近は、日本のリタイア組がたくさん滞在している。安いところに泊まり、市場や屋台で食事をし、切り詰めて暮らしている人もいて、タイの人々を驚かせている。「日本人はビンボーか?」と。

 1年以上の滞在では、戸建てやコンドミニアム、アパートを借りる。小さな庭つきの家が5万円くらいから借りられるが、チェンマイでは家賃が年々上がっている。そのためだろうか、日本の家を売ったり貸したりして、コンドミニアムを購入する人が少なくない。

 買えば家賃を気にすることもないということで、東京郊外の自宅を売り、チェンマイにコンドミニアムを買って住み始めた老夫婦の例もある。しかし、このご夫婦は滞在わずか1年ほどで「ここには暮らせない」と気がついた。ところが、買って改装までした部屋は買い手が見つからない。日本で賃貸マンションを探したが、70代の夫婦に貸してくれる部屋はなかった。やむを得ず、子供たちの住まいに近い中古マンションを購入し、チェンマイの部屋は賃貸にして日本に戻っていった。豊かな老後を送るつもりが、結局は誤算に終わったのである。

 海外では、住居は買わない。その地に骨を埋める覚悟がないのなら、いつでも引っ越せるよう、多少割高でも借りて住むのが一番。それが私の結論である。

(旅行作家 立道和子)

(2008/05/21)