産経新聞社

ゆうゆうLife

孤独死とごみ屋敷 孤立の果てに(中)

ご近所の人にあいさつする藤嶋稔所長(右)



 □ひとり世帯

 ■ご近所の見守り必要

 核家族化や高齢化で、ひとり暮らしや高齢夫婦だけの世帯が増えています。こうした家族形態の変化を背景に、孤独死は今後いっそう増えるとみられています。「孤独」「孤立」が一般化したとき、周囲にできることはあるのでしょうか。(寺田理恵)

 記録的な猛暑に見舞われた昨年夏。連日各地で37度から40度を記録し、高齢者を中心に熱中症による死者が相次いだ。

 東京都中野区の産経新聞専売所ではこの年、配達先で3件の孤独死が起きた。いずれも、ひとり暮らしだった。

 所長の藤嶋稔さん(69)は「確か気温が40度を超えた日の後でした。80歳代の女性のひとり暮らし。店員が気を利かせて新聞を2階の部屋の前まで運んでいましたが、10日ほど過ぎてもそのまま。『おかしいなあ』というので、私が交番へ駆けつけて、同行してもらったんですよ」と振り返る。

 現場は木造アパートの2階。異臭が漂っていた。ドアをたたいても返事がなく、15センチ程度開いたトイレの窓からのぞくと、つけっぱなしのテレビが見えた。外から電話をかけたが出ず、中に入った。室内には、単行本が山のように積み上げられていたという。

 別の80歳代女性のケースでは、新聞が3日分ほどたまっているのを同じ建物に住む家主が気づき、警察に通報した。生前、女性は体を動かすのがやっとの状態で、訪ねていっても玄関を開けようとはしなかった。亡くなる1週間前は2、3歩歩いては休むほど。遺骨は、54年ぶりに対面した弟が持ち帰った。

 もう1件は60歳前後の男性で、やはり新聞がたまっているのを家主が見つけた。

 一帯は活気のある商店街がだが、路地を入ると、ひとり暮らしの中高年が少なくない。「65歳以上で、介護保険で訪問ヘルパーが出入りしていればいいのですが、1割(自己負担)を払うのを倹約して、(サービスを)使わない人も多い」と藤嶋さんは話す。

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 中野区では平成16年に、ひとり暮らしの高齢者や高齢者世帯を対象に、見守り支援ネットワークを構築した。

 新聞の配達員や、ガス、水道の検針員、警察や消防などが見守り、必要なら関係機関に連絡する。藤嶋さんの店も協力機関の1つだが、「近ごろは旅行や入院などで家を空けるときも、新聞を止める連絡を販売店に入れない人が増え、新聞が3日たまったからといって、すぐに異変とは判断しにくい」のが実情だ。

 単身高齢者宅で5日過ぎても新聞が取り込まれないため、警察に通報したら、入院中だったケースもあった。店の入り口は常に開けておき、近所の人が気軽に来られるようにしている。しかし、配達先でなければ異変に気づくのは難しいという。

 都市の生活では、人と人との接点が少なくなっている。

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 核家族化と高齢化が進み、高齢者ひとり世帯や高齢の夫婦だけの世帯が増えている。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、単身高齢者世帯は、平成17年の387万世帯から27年の562万世帯へ、10年間で1・5倍に。また、夫婦のみの高齢者世帯も465万世帯から599万世帯に増加する。

 いずれ、孤独な単身者や孤立する高齢者夫婦が一般化しそうだ。

 高橋紘士・立教大学教授は「単身世帯と、その予備軍である夫婦世帯の割合が急激に高まることが予測されている。だから、孤立、孤独の生活を標準モデルと考える必要がある。家族の存在を前提に、支援の仕組みを考える時代はとっくに終わったにもかかわらず、変化が速すぎて意識が追いついていない。家族支援が無力になっているのに、相変わらず家族をあてにしている。孤独死はかわいそうなこと、一部の人の例外的なことという意識が、支援の仕組みづくりを遅らせてしまっている」と現状を指摘する。

 また、対策について「家族、親族の支援は要所要所で重要な役割を果たすが、すべてを担いきれない。互助や共助を含め、ひとり暮らしを支える社会制度を整備しなければならない」と話している。

(2008/05/27)