産経新聞社

ゆうゆうLife

孤独死とごみ屋敷 孤立の果てに(下)

作業中の集合住宅の一室。腰の高さまで積もったごみを半分、片づけた(豊中市社会福祉協議会提供)


 □コミュニティーソーシャルワーカー 

 ■撤去だけでは解決しない

 ひとり暮らしの増加とともに、ごみを片づけられない人の「ごみ屋敷」問題が表面化しています。孤独死と同様に、人とのつながりを失っているため、ごみを撤去しただけでは問題を解決できません。地域の人間関係を取り戻し、孤独を解消するには、地域住民が共通課題として取り組む必要があります。(寺田理恵)

 ごみ屋敷といえば、大量のごみが庭に山積みになった光景を思い浮かべがち。しかし、集合住宅の一室が人知れず、ごみで埋もれているケースもある。住人が高齢で体が弱っていたり、認知症や精神障害があったりが原因で、だれにでも起こりうる。

 大阪府豊中市の70歳代女性の場合は、資源ごみを外に出せず、次第にごみがたまった。「かつては知的職業についていた」(関係者)が、今は要介護状態で、エレベーターのない団地の4階でひとり暮らし。寝室と風呂が古新聞や段ボールなどで埋もれ、トイレや台所にも入れない状態だった。中には20年前の日付の新聞もあった。

 女性の家が「ごみ屋敷」状態になっている事実が分かったのは、ケアマネジャーの訪問がきっかけ。デイサービスに通いたいとの希望があることを知ったケアマネが介護保険の申請手続きのため、女性宅を訪問したが、中に入るのを拒まれたのだった。

 ケアマネから相談を受けて、豊中市社会福祉協議会のコミュニティーソーシャルワーカー(CSW)、勝部麗子さんが訪ねたときも、当初は「恥ずかしい所を見てもらうのは、いや」とかたくなだった。

 「解決に向けての糸口は、心を開いてもらうこと。ごみを捨てる決心をしてもらうと、次は捨てるための人手や処分費用をどうするか。ごみを片づけると、訪問ヘルパーが入れる。自宅に人を呼べるようになり、女性は人とのつながりを取り戻しました」と勝部さん。

 ごみ屋敷の片づけを民間業者に依頼した場合、量によって数十万円から100万円以上の費用がかかり、本人に支払い能力がない場合もある。

 この女性宅のごみの整理は、勝部さんや保健師、登録ボランティアが8人がかりで行った。古新聞などの古紙回収は民間業者に頼み、残ったごみは社協の車で搬出し、処理施設に持ち込むことで、費用の軽減を図った。事例によっては、ごみの搬出・処分費用を減免する措置の適用を、市に掛け合う場合もある。

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 こうした経験をもとに、平成17年、市や社協、保健所など関係機関と民生委員やボランティアが組織を横断して、ごみ屋敷問題に取り組む「ごみ屋敷リセットプロジェクト会議」がスタート。事例を持ち寄った結果、片づけたくてもできない高齢者や障害者の存在が分かってきた。

 片づけには、関係業者の予約やボランティアの依頼など、調整力と労力が求められるため、会議では、関係機関の役割分担を決めた。19年には、ごみを戸口まで取りに行く福祉収集システムも始めた。

 ごみ屋敷の問題を、一括して扱う行政窓口はない。例えば「要支援状態の高齢者で、子が精神疾患、孫が未婚の母」のような世帯は、縦割り行政では対応できない。1カ所で相談できる窓口や、問題解決にあたる機関の連携が必要だ。

 同社協では、ボランティアによる「福祉なんでも相談窓口」を開設し、相談を受けて、CSWが行政制度や地域の支援活動などにつなぐ仕組みを作っている。

 「人間の情として『助けてあげたい』という気持ちだけで動くと、『よくやるね』といわれて終わり。組織として行う必要があります。会議は、その仕組み作り。行政側が何ができるかを示せば、住民も地域の課題を解決するためだから、『ごみ出しくらいなら協力しましょうか』といっしょに動く」と勝部さん。

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 ひとり暮らしの増加や地域の人間関係の希薄化で、孤独死やごみ屋敷のような、かつては家族やご近所の手助けで解決できた問題が表面化している。医療や介護、障害者福祉の制度が入院・入所から在宅へと転換するなか、支援を必要とする人々を地域社会でサポートする態勢が不可欠だ。

 日本福祉大学の平野隆之教授は「行政職員が一気に片づける方法では、孤独は解決できない。問題解決に地域の人がかかわることで、本人が地域の人に心を開いていけば、SOSが出しやすくなる。ごみ屋敷を地域の問題として投げかける豊中の取り組みは評価できる」と話している。

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【用語解説】コミュニティーソーシャルワーカー

 支援を必要とする人々を、本人の生活圏や人間関係などを重視し、見守り・相談などの活動やサービスに結びつける専門家。高齢者に限らず、障害者や子育て中の親なども援助の対象とし、公的制度との関係調整も行う。大阪府が身近なセーフティーネットとして配置を進めてきた。孤独死対策としても注目されている。

(2008/05/28)