産経新聞社

ゆうゆうLife

年金で海外暮らし 言葉はやっぱり重要

互いに自国語を使いつつ、あうんの呼吸で仕立て物が完成


 「タオライ・カー(いくら)?」「シップ(10)・バーツ」

 鉛筆よりも細いアスパラガスが、1束32円だという。「アーロイ。アロイ(おいしいよ。おいしいよ)」。ワローロット市場の路上で野菜を売る小太りのオバサンが、笑顔で声を張り上げる。市場での買い物には、少々のタイ語が必要だ。

 と言っても、大した言葉はいらない。「いくら?」と「数」と「ありがとう」さえ分かれば、まあなんとかなる。私は1から10までの数と100とを覚え、組み合わせで999まで分かるようになった。1000は、まだ覚えられない。

 1000バーツ(3200円)を超えるような買い物には、デパートやショッピングセンターを利用する。こういう所では簡単な英語が通じ、「エニイ・ディスカウント(安くしてくれない)?」は私のお得意のフレーズだが、ときどき下手なタイ語を混ぜると店員がひどく喜んでくれる。

 海外では、日本人をだますのは日本人、とよく言われる。言葉に自信のない日本人が、つい同胞を頼りにし、その安心感から詐欺にあうケースが多いせいだ。大金がからむ不動産を買う場合など、地元値段の倍近くなる例もあるから要注意。退職後に大金を奪われると、老後の計画が狂ってしまう。近づいてくる日本人には、うかつに頼らないようにしたいもの。

 問題が起こらない限りは、チェンマイでは、ほんの赤ちゃん英語か、それ以下のタイ語でも、あまり不自由せずに過ごせる。しかし、いったん何らかのトラブルが起こると、言葉が話せないのは、やっぱり困る。

 病気なら、費用は高いが日本語通訳のいる私立病院へ行けば済む。困るのは、ほかのトラブルである。カナダに留学経験のある元医師でさえ、オーストラリアでは、「風呂で水漏れが起きたとき、言葉のハンディもあって大家との交渉に負けてしまい、大金を払わされました」とこぼしたほど。言葉は意思を伝える重要な手段なのだ。

 タイ語は数字とあいさつだけ、英語もヨチヨチの私など、“いざ”に直面したらどうするか? 元美人の大家さんとは、ときどきランチを共にする程度の仲良しだが、部屋にトラブルが起こったら、さぁて…。タイ語の話せる日本人通訳を雇おうか。いや、それよりも、今までの関係を頼りに、お互いのヨチヨチ英語で交渉したものか。

(旅行作家 立道和子)

(2008/05/28)