産経新聞社

ゆうゆうLife

年金で海外暮らし イミグレーションでは低姿勢に

仏教国のタイには僧侶が多い。タイ語の挨拶に、「お元気ですか」と、日本語が返ってくることも…


 「イミグレーションでは低姿勢に」が通説になっている。反抗したり、生意気な態度だと、ビザ取得に影響するというのだ。タイでは、31日以上の滞在にはビザが必要で、私はいつも観光ビザでチェンマイに入っていた。長く住むには面倒なので、昨年12月、長期に滞在できるビザを申請することにした。

 タイの長期滞在ビザには、「年金ビザ」と「ロングステイビザ」の2種類がある。月に6万5000バーツ(約20万8000円)以上の年金があれば、年金ビザは日本で比較的簡単に取得できる。が、私の年金は月に約5万1000バーツ。日本では年金ビザがとれない。

 50歳以上の人向けのロングステイビザは、タイ国内の銀行に80万バーツ(約256万円)の預金があれば取得できることになっているが、日本で申請すると面倒な手続きが必要。一方、タイ国内でなら、どちらのビザも案外簡単に入手できる。私のケースをご紹介しよう。

 タイ国内で年金ビザを申請するには、パスポート以外に、年金証書を領事館で英文に翻訳してもらい、証明を受けたものが必要だった。年金の少ない人は、年金と預金を足して80万バーツあるとの証明がいる。そのため預金残高証明書と通帳のコピーを用意しなければいけない。

 これらの書類を用意し、ビザ変更届を出すと、3カ月の滞在が許された。その後、2カ月たつかたたないかのきわどい時点で1年滞在のビザを申請した。このときも最初と同様の証明書類が必要だが、ビザの条件はしばしば変わる。1年のビザ申請に訪れた私が持参したのは、パスポートとお金だけ。まさか2カ月前と全く同じ証明書類を、再び用意する必要があろうとは思ってもいなかった。

 「書類が足りないから、用意してまた来なさい」。1時間も待たされた揚げ句、中年の係官に宣告された。私は納得がいかない。「低姿勢に」がチラと頭をかすめたが、そんなの知ったことか。「この間、書類を出したばかりなのに、なんでまた同じものが要るんですか」。おかしいじゃないのと、さんざんネバッタのである。係官はうんざりした顔。「とにかく帰れ」と私をオフィスから追い出した。

 「好きなのはビールだけかと思ったら、けんかもだったの?」。友人たちにあきれられたが、後日、書類持参で再びイミグレに行き、無事1年間の年金ビザを獲得した。例の中年係官に、申しわけなかったと低姿勢で謝ったのはもちろんである。(旅行作家 立道和子)

(2008/06/11)