産経新聞社

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年金 年金質問箱 繰り下げで増やす(中)



 ■Q.加給年金の振替加算はどうなりますか?

 ■A.繰り下げで止まり、増えません

 公的年金の受け取り開始を遅らせる「繰り下げ」。繰り下げれば、老齢基礎年金や老齢厚生年金の額は増えますが、繰り下げている間、年金についている加算は受け取れず、中には増額されないものもあります。年金を繰り下げた場合、受け取り累計額はおおむね12年で65歳支給を逆転しますが、加算がつかないと、その分、逆転時期が遅れるので、注意が必要です。(佐久間修志)

 大阪府に住む小高由美さん(67)=仮名=は2年前、夫(72)から「あれ、お前の(加給年金)分が引かれてるぞ」と言われた。小高さんが65歳になり、夫の年金についていた加給年金が支給されなくなったためだ。

 夫の加給年金が止まれば、一般に一部が妻の老齢基礎年金に「振替加算」としてつく。だが、小高さんは年金を繰り下げている。このため、小高さんには振替加算の約14万2900円が支給されていない。

 小高さんは65歳になる直前に繰り下げを決めた。「繰り下げは、早く死んだら損だと言われるけど、死んだらお金はいらない。それより長生きに備えた方がいい」。両親も長生きしたという小高さんは前向きだ。

 また、小高さんの娘3人は全員、長男に嫁いだ。「娘はだんなさんの家を優先しないと」。万一、自分が倒れても、娘たちには甘えられないという親心も繰り下げた理由の一つだ。

 振替加算がつかないと知った夫は「早く年金をもらう手続きをしろ」と、たびたび催促。それでも小高さんは「しばらくはあなたの年金で暮らせるし、後で年金は増えるんだから」と主張し、耳を貸さないできた。

 だが、昨年から年金問題がクローズアップされ、「私の年金は大丈夫なのか」と心配になってきた。「知り合いは誰も繰り下げしていないし、夫は早くもらえと言う。このまま振替加算を犠牲にして繰り下げても、損にならないのでしょうか」

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 「加給年金」は、厚生年金の加入期間が原則20年以上ある人が、65歳未満の配偶者または18歳未満の子がいる場合につく。配偶者に年金受給権が発生すると、ゼロになるが、配偶者が昭和41年4月1日以前に生まれ、厚生年金加入期間が20年未満なら、一部が「振替加算」として年金に上乗せされる。

 しかし、配偶者が年金を繰り下げると、その間は振替加算がつかない。振替加算はあくまで“上乗せ”で、「年金本体がない場合は上乗せもない」(厚生労働省年金課)からだ。

 注意したいのは、振替加算が止まる影響。振替加算は一生受け取れるが、繰り下げても増えない。このため、振替加算のついた年金を繰り下げると、年金の受け取り累計額が65歳支給開始を逆転する時期(連載(上)参照)も遅れる。

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 実際にどのくらい遅れるか見てみよう。

 小高さんの年金は65歳で受け取れば年額約84万円(振替加算含む)だが、68歳まで繰り下げると約114万円(同)、69歳で約129万円(同)に増える。累計額が65歳支給を逆転する時期は、それぞれ76歳5カ月と76歳7カ月となる。しかし、仮に、振替加算がなければ、逆転時期は、それぞれ75歳0カ月と75歳3カ月と短縮される。

 小高さんの場合、加算があることで、逆転時期は1年半弱延びるが、これは小高さんが昭和15年生まれで、繰り下げによる増額率が高い世代だから。16年4月2日以降の生まれなら、増額率が低く、また事情は違ってくる。

 たとえば、来年65歳になる昭和19年3月生まれの人では、どうなるか−。満額の老齢基礎年金を68歳で受け取り始めれば、65歳支給を累計額で逆転するのは79歳と11カ月(連載(上)参照)。一方、振替加算12万4700円があると、逆転時期は81歳10カ月と、2年近く遅れる。

 社会保険労務士の田中章二さんは「年金を何歳まで繰り下げるかは、累計額が65歳支給を逆転する時期がいつになるかが判断材料の一つ。振替加算がつく場合は、逆転時期が遅くなるので注意が必要だ」と話している。

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(2008/06/24)