「なぜ、繰り下げようと思ったんですか?」。年金を遅らせて受け取り、額を増やす「年金の繰り下げ」を連載した今回の取材で、繰り下げを選んだ受給者に、そんな問いを投げた。
私自身はどちらかと言うと、年金額は減っても、65歳よりも早く受け取りたい「繰り上げ派」だ。繰り下げたら、支給開始から約12年過ぎないと、受け取り累計額が65歳支給の人に追いつかない。遅くもらうのは「損する気分」なのだ。
「累計額が追いつくまで生きているかどうか分からない。もらえるうちにもらっておいた方が得」。不確実な人間の寿命には期待しない。それが繰り上げ派に共通する“鉄壁の論理”だ。
そして、「繰り下げ派」の反論は−。彼らの答えは、なんと、「65歳支給を、いつ逆転するかはほとんど気にしない」。繰り上げ派が、判断の軸とする累計額を、繰り下げ派はほとんど気にしていないのだ。
「いざというときに、どのくらいもらえるかが大事」。繰り下げ派は口をそろえた。彼らの優先順位は、損得よりも将来の安心が上なのだ。
「私はきっと長生きすると思うの」。受給者の1人はそう話した。人間の寿命が不確実であることは繰り下げ派も知っている。ただ、不確実さを良い方にとらえ、万全の準備を怠らない姿勢は、「年金=保険」という制度の趣旨にも合っている気がした。(佐久間修志)
(2008/06/27)