産経新聞社

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年金 年金質問箱 受給資格を満たすには(下)


 ■Q:加入期間が短くても受け取ることは出来ますか

 ■A:救済策として3つの特例があります

 年金は原則、加入期間の合計が25年以上ないと受けることができません。しかし、一定の年齢以上なら、加入期間が短くても年金が受けられる特例が複数あります。あきらめる前に、自分が何らかの特例に該当しないか、よく確かめてください。(横内孝)

 大阪府内のパート、市原節子さん(66)=仮名=は5年前の選択が正しかったのか、今も答えを出せない。年金を受けるために必要な25年の加入要件が満たせないと考え、パートに働き方を変えたのだ。

 市原さんは全国に約45万人いるとされる65歳以上の無年金者の一人。昭和17年生まれで、16歳から地元の工場で丸4年働いた。その後、姉を頼って大阪へ出て、25歳まで4つの会社に勤務。9年余りで厚生年金に計108カ月加入した。

 退職の1年ほど前に結婚した夫と飲食店を始め、2人の息子を育てながら、懸命に働いた。しかし、30年後の平成9年、夫婦に転機が訪れた。夫が体調を崩し、店を閉じることになったのだ。節子さんは55歳になっていた。「うっかりしていたというか、主人も私も、国民年金には入っていなかったんです」

 市原さんはその年、会社勤めを始め、厚生年金に入った。60歳が近づくと、職場でも年金が話題になった。市原さんも何度か社会保険事務所を訪ねた。ただ、国民年金に未加入だった期間は約30年間と長い。しかも、厚生年金のうち4年分は脱退手当金を受けており、昭和36年3月分まではカラ期間にもあたらない。25年のハードルは高い。

 社会保険事務所でのやりとりの末、5年前、働き方を変え、厚生年金の被保険者の資格を喪失した。この時点で市原さんの年金加入期間は135カ月と、カラ期間に認められる11カ月を合わせて計146カ月分(12年2カ月)。25年の半分にも満たなかった。

 2年後、年金が受給できないなら、せめて支払った保険料を取り返したいと、若かったころに納めた厚生年金の脱退手当金を受け取った。だが、その後、加入歴が短くても年金を受け取れる特例があると知り、いったんはあきらめた年金への思いが再び募る。「今の会社は、希望すれば厚生年金にも入れてもらえるし、長く働ける。今からでも年金を受け取る方法はあるのでしょうか」

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 25年加入の原則が始まったのは、昭和61年4月施行の年金制度(新法)から。それ以前は20年加入で年金が支給されていた。国は制度改正で不利益が生じないよう、救済策として3つの特例措置を設けた。実は、市原さんはこの表の特例Bと特例Cに該当する。

 特例Bは、昭和31年4月1日以前に生まれた人を対象にした「被用者年金(厚生年金、共済年金)制度の加入期間の特例」。厚生年金と共済年金の加入期間が単独、もしくは合計で20〜24年あれば年金を受けられる。

 市原さんの場合、20年(240カ月)でOKだが、この特例にはカラ期間は認められない。このため、加入期間は55歳以降の75カ月分になる。165カ月分も不足だ。

 特例Cの「厚生年金の中高齢者の特例」は、昭和26年4月1日以前に生まれた人が対象。女性の場合、35歳以降(男性は40歳以降)の厚生年金加入期間が生年月日に応じて、15〜19年あれば受け取れる。こちらもカラ期間は認められない。この特例を使うと、市原さんは35歳以降に15年(180カ月)の加入期間があれば済む。不足は105カ月分で、それでも、あと8年9カ月、厚生年金に加入する必要がある。5年前に働き方を変えず、厚生年金保険料を納め続けていれば、70歳超で受給権を得られた計算だ。

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 厚生年金の適用事業所でフルタイムで働く場合、70歳までは強制加入。しかし、70歳に達しても加入期間が不足で、それ以降も働き続ける場合、「高齢任意加入被保険者制度」を利用して保険料を納める道はある。ただ、保険料は全額自己負担なので、“覚悟”が必要だ。市原さんのケースについて、社会保険労務士の村上浩三さんは「可能性はあるが、トライするかどうかは本人次第。まず社会保険事務所に足を運び、年金記録に漏れがないか調べ、足りない期間を再確認してほしい。そのうえで、70代半ばまで払う保険料の総額に対し、受け取れる年金額を試算してもらい、費用対効果を見極めて判断してほしい」と話す。

 社会保険労務士の北村庄吾さんは「年金制度は相次ぐ改正で複雑になっており、分かりにくい。制度を知らず、無年金になっていく人は少なくない。25年の受給資格期間の見直しを含め、制度を単純化する必要があるのではないか」と指摘している。

(2008/07/04)