産経新聞社

ゆうゆうLife

外出したい街づくり トイレで街おこし

打吹公園の公共トイレ。外観は、街の景観を形作る白壁の土蔵を模している=鳥取県倉吉市


 街に快適な公共トイレがあれば、お年寄りはもっと外出しやすくなるのではないか。それに取り組んでいる街や自治体がある。

 東京・巣鴨のとげぬき地蔵は、中高年者を中心に1日5万人前後の参詣者でにぎわう。この人たちのトイレはどうなっているのか。水洗い観音のある高岩寺の横にトイレビルがあるが、それでは間に合わない。地蔵通り商店街190店舗のうち、約6割がトイレを自由に使えるよう開放している。休息用ベンチを置く店もある。

 秋田県の旧鷹巣町(現北秋田市)では、商店街の中心に元衣料店の空き店舗を利用した広い談話室とトイレのある「げんきワールド」を設けたところ、高齢者や障害者、幼児連れの母親などが街に出やすくなり、商店街の憩いの場になっている。

 どこの町や村にもあって、皆が知っている交番や郵便局のトイレをだれもが利用できたら、と私は考えてきた。岡山県では303カ所の交番・駐在所のうち、91カ所(平成20年3月末現在)にバリアフリーのトイレがあり、今も増え続けている。

 鳥取県倉吉市の「トイレからのまちづくり」には感心した。人口約5万2000人の市に、公共トイレは民間の3カ所を含む21カ所。街角、バス停、自転車置き場、公園などに風景に配慮した個性的なデザインのトイレがある。

 日本さくら名所100選にも選ばれた打吹(うつぶき)公園のトイレは、数寄屋風や白壁土蔵風。市民の利便を考え、街づくりの一環として各トイレの入り口には電話ボックス、休憩所があり、食事もできる。トイレ内には洋式・和式・幼児用便器、ベビーサークル、大型化粧台、着替えコーナー、手洗い、水飲み場がある。

 高齢者、障害者などが出かけやすくなり、白壁土蔵群などの観光客にも好評という。

 「その家のトイレを見れば、しつけや人間性が分かる。街も同じ。家のトイレに花を生けるように、美しいトイレは便利さと公共心を養い、市民性のアピールにつながる」という牧田実夫元市長の発想があった。

 岐阜県高山市も「住む人にとって住みよいまちは、訪れる人に行きよいまち」というコンセプトのもと、観光と福祉施策を結びつけた「福祉観光都市」を目指している。

 高齢社会にはバリアフリーも必要だが、トイレの充実はもっと切実と思う。(早川和男)

(2008/07/16)