産経新聞社

ゆうゆうLife

外出したい街づくり 自分たちでミニデイ運営

 鳥取県琴浦町のJR山陰線八橋駅のホームに降り立つと、瀟洒(しょうしゃ)な三角屋根の建物が目に入る。平成5年、琴浦町はJR西日本から無人の駅舎を譲り受けて改装した。高齢者ミニデイサービス「八橋ふれあいセンター」として、周辺の高齢者が利用する。

 ほぼ80〜90代の12人が集う。おやつを食べ、読書や手芸など、各自が自由に過ごす。当初は町職員が体操や手遊びなどを指導したが、「自分たちで自由に運営したい」との要望を受け、18年にデイの指定管理者を住民組織「八橋振興会」に移した。全員、歩いて通ってくる。強い雨の日も休むことはない。

 「駅」の認知度は抜群で、親しみがあり、通いやすい。顔見知りの乗降客が声を掛けていく。高齢者が街の日常生活に溶けこみ、社会から孤立していない。「ここは近所の人ばかりで、姉妹以上の付き合いです。すべてが自由で、好きなことができる。ここにいると一年一年若くなる。身体が不自由にならないかぎり、デイサービスなどには行きたくない」と、最年長の米田節子さん(92)。会費は月1000円。暖房費などに使い、残ったお金で会食する。町は月2000円を補助する。

 何度か訪ねたが、今年3月、来て20日ほどという78歳の女性に会った。夫が亡くなり、子供は独立し、不安と寂しさでいっぱいだったが、来始めて不安がなくなり、明るくなった。「何をするわけでもないが、本当に来てよかった」と涙ぐまれた。

 デイサービスといえば、送迎、歌や習字、リハビリ体操。家族は日中、手が空き、高齢者の昼ご飯と入浴も済むので、ありがたい。しかし、「チイチイパッパなんかやっておれない、幼稚園じゃあるまいに」「年寄りが遊んでもらうような所には行きたくない」「他人と一緒の食事は苦手」など、不満も多い。

 兵庫県芦屋市の特別養護老人ホーム「あしや喜楽苑」デイサービス部長の小林大洋さんによれば、利用者の希望は、職員同伴の個別外出▽音楽でも何でも本物志向▽型にはめられない▽みんなといること。喜楽苑には中庭に面した広いホールがあり、自由に行動できて、職員の目が届く。小林さんは「時間がゆっくり流れ、お年寄りの表情がよくなる」という。八橋ふれあいセンター利用者の思いと同じだろう。デイサービスはあり方を再検討する時期ではなかろうか。(早川和男)

(2008/07/30)