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年金 年金質問箱



 【Q】加入期間が短いと、年金はかけ捨てですか?

 【A】条件次第で脱退手当金が受け取れます

 厚生年金の加入期間が短く、年金を受けられない人に支給される一時金「脱退手当金」。昭和61年度以降は廃止されましたが、現在も条件を満たせば、受け取れるケースがあります。その条件について解説します。(佐久間修志)

 「年金が支給されるには、4年半ほど足りません」。大阪府内に住む田原正樹さん(68)=仮名=は2年前、社会保険事務所でそう告げられて、途方に暮れた。

 田原さんは22歳から自営で縫製店を始めた。しかし、50歳に近づくにつれ、不況で受注が激減。51歳で店をたたみ、それまでの取引先メーカーで社員として雇ってもらった。社員として7年半勤めたが、最後は体調をくずして58歳で退職した。

 店を経営していたとき、年金のことはほとんど考えなかった。店の切り盛りや、3人の子供の教育費など。結果的に、「たまに集金の人が来たときに払う程度だった」という。そのうち、不況に巻き込まれ、経済的にも払えなくなった。

 年金について考えたのは、60歳になる直前。会社員時代に加入した厚生年金基金から支給の通知が来たからだ。ところが、国民年金は、65歳になっても通知がこない。「自分の年金はどうなったんだろう」。66歳で社会保険事務所を訪れ、年金の加入期間が、支給要件に満たないことを知ったという。

 今は会社員の息子と同居しながら、63歳になる妻がパートで働き、生計を立てる。「体調のこともあるし、妻もいつまで働けるか分からない。金額は少なくても、年金をもらうことはできないのでしょうか」

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 老齢基礎年金の支給には原則、年金の加入期間が25年以上必要だ。「25年」には、実際に保険料を支払った期間のほか、所得が一定以下の人が支払いを免除される期間(保険料免除期間)をはじめ、海外在住などで加入したとみなされる期間(合算対象期間)も含まれる。

 田原さんの年金加入年数は図の通りで、全期間を合計しても25年に満たない。だが、昭和14年生まれで厚生年金に7年半加入した田原さんは、「脱退手当金」を受け取ることが可能だ。

 脱退手当金は古い年金制度にあり、厚生年金(受給には20年以上の加入が必要だった)の加入期間が短い被保険者が、一時金を受給する制度。昭和61年の年金制度改正で、老齢基礎年金を受給できれば、老齢厚生年金も1カ月の加入期間で受給できるようになったため廃止された。

 ただ、例外的に、(1)昭和16年4月1日以前生まれ(2)厚生年金の加入期間が5年以上(3)老齢厚生年金が受けられない−の3条件を満たす人については、現在も脱退手当金を受け取れる。田原さんはこの条件をすべて満たしている。

 では、田原さんが脱退手当金を受け取った場合、その金額はどうなるのか。

 脱退手当金は、厚生年金に加入していた間の標準報酬月額の平均に、一定の倍率=表=をかけて算出する(過去一時的に受給した障害年金の受給額は除く)。厚生年金に計7年半加入していた田原さんの場合、この倍率は1・5倍。当時の月収が約30万円と仮定すれば、45万円程度となる計算だ。

 社会保険労務士の中尾幸村さんは「脱退手当金は廃止されたが、もらえる条件を満たす人は意外に多い。いつでも受け取れるので、貯金のように考えてもいい」と話している。

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 ■カラ期間、特例に注意を

 田原さん同様に、年金加入期間が要件に満たず、年金が受け取れないケースでも、「脱退手当金を受け取るしかない」と決めつけるのは早計だ。

 理由は、年金額に反映されないが加入期間にカウントできる「合算対象期間(カラ期間)」を見落としているケースがあるため。社労士の中尾さんは「脱退手当金を受け取る前に、本当に加入期間が25年以上にならないか、細かく確認する必要がある」と注意を促す。

 合算対象期間となるものは少なくない。サラリーマンの配偶者で、昭和61年3月以前に国民年金に任意加入しなかった期間▽昭和36年4月以降に海外在住時に任意加入しなかった期間▽脱退手当金を受けたうち、昭和36年4月以降の期間−など、さまざまだ。

 配偶者にかかわる部分は注意が必要だ。田原さんのケースでも、昭和61年3月以前で田原さんの妻が働いていれば、田原さん自身が「サラリーマンの配偶者」として年収にかかわらず加入期間がカウントされる。そうなれば、全加入期間は25年に達する可能性もあった。

 また、生年月日によっては、加入期間が15〜24年で支給要件を満たす特例もある。

 中尾さんは「25年に満たないという人も、自分と配偶者の経歴を整理した上で、社会保険事務所などや専門家に相談してみては」とアドバイスしている。

(2008/08/25)