産経新聞社

ゆうゆうLife

もうひとつの家族 施設から里親・養親へ(4)

みんな一緒のお風呂って、こんなに楽しい−。施設生活では、こうした家庭的な入浴はできないという=茨城県鹿嶋市の堀井さん宅


 ■週末に家庭生活を経験

 児童養護施設で暮らす子供たちを、週末や夏休み、正月などに招き、家庭生活を体験してもらう「週末里親」「季節里親」。子育てが一段落した50代の関心も高いようです。里子にとっても、定期的に帰れる家があるのは心の支え。2年前から週末を里子と過ごす家族をたずねました。(清水麻子)

 「おじちゃん、ただいま」

 8月中旬の日曜日、茨城県鹿嶋市の会社員、堀井健蔵さん(58)宅に、妻のよし子さん(55)に連れられ、近所の児童養護施設で暮らす兄妹がやってきた。小学1年の真くん(7)と幼稚園年長の美咲ちゃん(6)=いずれも仮名。夫妻は約2年前、施設の子供に家庭生活を経験させる県の「日曜の家事業」に登録し、「週末里親」になった。以来、月1回のペースで2人を受け入れている。

 2人が来る日はたいてい、よし子さんが車で迎えに行き、スーパーで一緒に夕飯の材料を買い、公園で遊んで帰宅する。2人はそれから健蔵さんとお風呂に入ったり、食卓を囲んで最近の施設での出来事を話したりして時間を過ごす。

 「特別な所に連れていくわけではありませんが、施設でできない普通の生活を経験してもらっています。彼らが家庭を持つときの力になれば、うれしい」とよし子さん。

 夫妻が週末里親になろうと思ったのは、親類の子の養育がきっかけ。事情があって5歳まで育てたが、実母の元に帰った。よし子さんは「子供のいない生活が急に寂しくなってしまいまして。そんなとき、夏休みだけ施設の子供を預かる里親の話を思いだして。私たちもやってみようと申し込みました」と言う。

 健蔵さんは「真はいつもうちに来るのを楽しみにしてくれて、帰る日も『もっと一緒にいたい』と言ってくれる。美咲もこの前、父の日と母の日に描いた僕たちの絵を持ってきてくれて。成長が見られてうれしいですよ」と話す。

 しかし、受け入れ当初は、戸惑いもあった。食べ物を朝から晩まで求め、真くんは吐くまで食べた。抱っこばかりせがむ2人に、愛情が足りないのかと心を痛めたこともあったという。

 やりがいを感じた夫妻は去年7月、マリちゃん(5)=仮名=の養育里親になった。健蔵さんは「年齢と体力を考えると、何人もできませんが、月2、3日、子供と触れ合う週末里親は、私たちにはベストな形です。普段、会えない分、会ったとき余計に楽しく思えますし。2人にいい思い出を作ってあげたい」と話している。

 ■「帰る場所」が子供に支え

 週末里親や季節里親には、施設で暮らす子供に家庭を経験させるだけでなく、長期にわたり子供に信頼を与え、心の糧となる関係を築くことが求められる。

 児童養護施設では、職員がかわることは少なくない。全国児童養護施設協議会の調査(平成17年度、全国557施設)では、1施設での勤務は7、8年が一番多く、4年以下も約1割に上る。せっかくできた愛着関係を断ち切られ、心を閉ざす子供もいる。

 日本社会事業大学専門職大学院の宮島清准教授は「週末や夏休みなど、限られた交流でも、帰る場所があり、継続的に支えてくれる大人がいることは、子供には大きな支えになる」と話す。宮島准教授はかつて、児童相談所でケースワーカーとして勤務し、週末里親らが子供の大学進学の支援をしたり、自立してアパートを借りる際の保証人になる例をみてきた。「長期の視点で無理なくできる支援をしてほしい」と話す。

 養育里親の登録数が伸び悩む中、「最初の入り口」としても注目される。堀井夫妻のように、週末里親で経験を積み、養育里親として“巣立つ”ケースも少なくないようだ。

 週末や季節里親は、短期里親と違い、施設が調整することが多い。宮島准教授は「施設のファミリーソーシャルワーカーの仕事には、新規里親の開拓もあるが、それがもっともできていない。気持ちのある人に、ワーカーが働きかけることで、養育里親も増えていくでしょう」と話す。

 週末里親、季節里親の名称や運用は各自治体による。問い合わせは各自治体の里親担当課。

(2008/09/04)