産経新聞社

ゆうゆうLife

編集部から 女児の心、思いやる必要も

 8年前、大学病院の点滴ミスで1歳半の娘、笑美ちゃんを亡くした神奈川県平塚市の菅俣弘道さん、文子さん夫妻が養育里親になったと聞いて、お宅を訪れた。夫妻は月日を経て、子育てへの意欲を取り戻し、昨年、笑美ちゃんと似た年頃の女児を児童相談所(児相)から預かったという。

 笑美ちゃんの死で静まりかえっていた家に再び子供の声が響き、女児は夫妻の愛情にはぐくまれ、柔道整復師の弘道さんの手つきをまねては周囲を沸かせるまでになった。

 しかし、転機は突然やってきた。預かって4カ月後、児相から「女児を親族にお返しする」との電話が入ったのだ。翌日、女児は児相の車に乗せられ、いや応もなく親族の元に連れられていった。

 実親の同意があれば、親族が女児を引き取ることはできる。しかし、通告から1日で里親から突然、引き離された女児の心はきっと、「どうして?」の一語に尽きるだろう。

 文子さんは後日、女児が車中で号泣したと聞いた。「ご親族が愛情を持って育ててくれるなら、それが一番いい。しかし、子供は物ではありません。心を思いやってほしい」と訴える。

 児相は本当に子供の立場になって対応したのだろうか。引き取りを急ぐ親族に、「子供のために、時間をかけて関係を築いてほしい」と、言うべきではなかったろうか。(清水麻子)

(2008/09/05)