産経新聞社

ゆうゆうLife

もうひとつの家族 施設から里親・養親へ(5)

子供は家庭で育つもの−。卜蔵康行さん(左)と亜希子さん(右端)=宮城県蔵王町


 ■ファミリーホーム 家庭養育の受け皿に

 親元で暮らせない子供5、6人を預かり、大家族で育てる里親ファミリーホーム。里親が増えないなか、家庭養育の受け皿として期待が集まっています。国は里親ファミリーホームを制度化する方向ですが、調整は難航。里親ファミリーホームの子供が十分な愛情を受けるために必要な経済的支援のめども立っていません。(清水麻子)

 「みんなー、お昼ご飯だよー」。“お母さん”が声をかけると、あちこちで遊んでいた子供が食卓に集まった。

 宮城県蔵王町。豊かな自然の中にある広い一軒家が、3歳から17歳まで6人の子供たちの“家”だ。親から虐待を受けたなどで親元で暮らせない子供が大家族として暮らす。この日は、部活に出た中高生を除き、家族6人が同じ食卓を囲んだ。小学6年の有美ちゃん(11)=仮名=が「おいしいよ」とラーメンをほお張ると、3歳の和樹くん=仮名=もニコニコとうなずいた。

 卜蔵(ぼくら)康行さん(53)、亜希子さん(53)夫妻が、里親ファミリーホームを始めたのは平成17年。23年前、施設で暮らす子供の週末里親になったのをきっかけに養育里親になり、「家庭で暮らせる子が一人でも増えれば」と、複数の子供を預かるようになった。

 宮城県の一時保護所や児童養護施設も満員に近い。里親登録する夫婦はいるが、養子縁組の希望が多く、虐待などで心に傷を負う子供の受け皿は不足している。「引き受け手のない子供はうちで」。夫妻は積極的に虐待を受けた子や非行の子も受け入れてきた。

 しかし、心が傷ついた子供への対応は難しい。幼いときに虐待を受けた和人くん(8)=仮名=は低学年の時には、友達をたたいたり、かみついたりと問題行動もあった。夫妻は社会のルールを教える一方で、「いつもそばにいるから」と気持ちで寄り添い、和人くんが変わってくれる日を待ったという。

 実親の元に戻るのは現時点では難しいが、実母の記憶は消さない。「和人のつめはきれいな形だね。お母さんも、きれいなつめの形なんだろうね」。時間をかけて事情を説明すると、和人くんは次第に大家族に溶け込んでいった。

 康行さんは「ファミリーホームの良いところは、子供同士の育ち合いがあるところ。いろんな背景を持ってやってきた子供たちが、自然に子供の輪に入っていける。私たちも子供の問題に直面したとき、ほかの子供から助けられる。大家族に子供も大人も支えられています」と話している。

 ■制度化難航、支援メド立たず

 里親ファミリーホームが施設と決定的に違うのは、子供が1組の里親夫婦と継続的に生活できる点だ。近年、児童養護施設が小規模化し、グループホームも普及しつつあるが、職員の異動や退職は避けられない。信頼できる大人との継続した関係は担保されていない。

 養育里親の数が伸び悩むなか、1人でも多くの子供が家庭で過ごすため、里親ファミリーホームの増加が望まれるが、淑徳大学の柏女(かしわめ)霊峰教授は「里親ファミリーホームにいる子供全員が『大切にされている』と感じながら生活するには、国の支援が欠かせない」と指摘する。

 「5、6人を育てる里親夫婦は学校の送り迎えやPTA活動などで、ただでさえ時間が足りない。子供の心を大切にしたケアを、と考えると、補助要員が十分に雇える援助が必要。また、1対1の愛情が必要な乳幼児を預かった場合の乳幼児加算なども確立し、資金面で支えるべきです」

 里親ファミリーホームは現在、自治体の独自事業で行われているが、自治体格差が大きい。卜蔵夫妻が住む宮城県では補助要員費はつくが、年間30万円が上限。康行さんは「時給625円で日に8時間引き受けてくれる方がいますが、30万円では60日分にしかならない。自営の仕事に加え、子供にかかわる用事も多い。1対1で接してあげると、子供の表情がまったく違うのに、と思えば思うほど、もどかしい」と話す。

 さらに、実家庭への復帰が見込めない子供は将来、専門学校や大学に通わせたいが、準備する経済的余裕はなかなかない。

 しかし、宮城県は今年12月で補助を打ち切る方針を決めた。「国が里親手当を増額することを見越した措置」(県の担当者)とするが、里親ファミリーホームの制度化を盛り込んだ児童福祉法改正案はねじれ国会の影響で廃案となり、支援のめどは立っていない。

 柏女教授は「多くの国会議員に里親や里親の元で暮らす子供の現状を知ってもらい、改正案が可決され、里親ファミリーホームが全国に広がるようお願いしたい。国も施設が少ないから、という消極的理由で里親委託を増やすのではなく、『里親優先の原則』を打ち立て、子供が家庭で過ごせるよう十分な支援を行ってほしい」と話している。=おわり

(2008/09/05)