産経新聞社

ゆうゆうLife

編集部から 戦争の影と気概と

 「徴用されたときの年金はもらえますか」

 戦争末期に軍需工場などに動員された80代の読者から、年金相談が相次いで寄せられた。徴用工や女子挺身(ていしん)隊員だった人に、「戦時中の年金がもらえるとは思っていませんでした」という人が多い。

 戦後60年以上が過ぎ、もはや解説本にも記載がない古い年金。関心が高まったきっかけは「ねんきん特別便」だ。当時の記憶に水を向けると「何度も空襲を受けました」「動員されて卒業式もしないまま」。年金どころではなかったのだろう。請求されなかった年金は多そうだ。

 受給するには加入期間などの条件がある。しかし、せっかく条件を満たした人でも、「暑いうちに手続きに行くのは無理。何十年ももらっていなかったのだから、1カ月や2カ月、いいんです」と、欲がなさそうなのだ。

 そんなとき、高齢者のひとり暮らしの取材で、配食サービスを行う「潤生園」のスタッフに同行した。80代ともなれば、家にこもりがちで、外出は簡単でない。それでも、多くを頼らない。戦争を経験した世代の気概のようなものを感じた。

 時田純園長は「女性が多いのは、戦争で夫を亡くしたり、未婚を通したりした結果。いまだ戦後は終わっていないのです」と話す。戦争は今も影を落とす。一方で、気概も残っている。(寺田理恵)

(2008/09/19)