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今から考える葬儀のこと(下)セミナーで情報収集


 いつかは訪れる「死」。東京都の生活文化局が13年に実施した調査では、葬儀を経験した人の5人に4人が「悔いが残った」と回答しています。納得のいくエンディングを迎えるには、どうすればいいのでしょうか。「備えあれば憂いなし」の格言通り、カギは生前の入念な準備と家族のコミュニケーションにあるようです。(横内孝)

 東京都八王子市。市住宅・都市整備公社が9月上旬、市営斎場で開いた葬儀セミナー「知っていて損をしない葬儀のあれこれ」には、年配層を中心に約90人が集まった。講師を務めたNPO法人「葬儀を考えるNPO東京」の高橋進代表理事は「悔いを残さないためには、どういう葬儀をしたいかをはっきりさせ、複数の葬儀社と事前相談し、見積もりをとることが大切です」と助言する。

 「最近、『直葬』という葬儀の形をよく耳にするので、それを聞きにきました」という市内の鮫島ひろ子さん(73)=仮名=は「おかげで選択肢が増えました」と満足げ。直葬はセレモニーをせず、家族だけで済ませる葬儀の形態。「家族にも周りにも負担をかけたくないので、友人が勧める直葬でいいと思っていましたが、比較的割安な料金で葬儀ができる市民葬にも魅力を感じた」という。

 千葉県市川市の小山内康則さん(67)=仮名=は妻と2人暮らし。3年前、狭心症と診断されて以来、葬儀関連の本を読んだり、葬儀相談を請け負う会社で相談するなどで情報を集めている。北海道出身なので地縁もなく、退職後は社縁も希薄になるばかり。「費用は100万円以下。使い回しの白木祭壇ではなく、生花祭壇がいい。呼ぶのは、近くに住む娘夫婦と孫、親類の15人ほど」と、葬儀のイメージができあがっている。残された家族が混乱しないよう、妻に意思を伝えるか、書き残すかしたい意向だ。「葬儀サポートセンター」を運営するアクトインディ(東京都品川区)を通じ、最低2社以上の葬儀社から見積もりをとるつもりだ。

 2人のように、生前に葬儀の情報収集、準備をする人が増えている。全日本葬祭業協同組合連合会(全葬連)が日本消費者協会に委託する形で昨年実施したアンケートでは、回答者の40%が「費用や葬儀の仕方を相談しておきたい」と答えた。4年前の調査の27%より10ポイント以上も上昇。同協会は「葬儀をタブー視せず、元気なうちから考えておこうという人が増えてきている」と分析する。

 ■内容理解しトラブル回避を

 事前の情報収集同様に重要なのが、葬儀の費用をどう工面するか。

 費用準備の代表例が月々1000〜3000円の掛け金で冠婚葬祭サービスを将来利用する権利を購入する冠婚葬祭互助会(互助会)。加入者は全国に2300万人に上る。

 全国の葬儀社の約25%にあたる1450社が加盟する全葬連も8年から、生前予約制度「if共済会」をスタート。入会金1万円で、本人か2親等以内の身内が亡くなった場合、加盟葬儀社での葬儀の基本料の10%が弔慰金として払われる。さらに、会員には、死亡時に葬儀費用100万円が受け取れる保険プランも用意している。

 しかし、「不透明」「分かりにくい」との批判は多く、苦情は後を絶たない。19年度に国民生活センターと全国の消費生活センターに寄せられた葬儀にかかわる苦情や相談は384件。この5年で倍増した。最多は契約・解約に関するもので、全体の7割。「病院から自宅までの搬送を頼んだら、勝手に葬儀の準備に入られた」「病院指定の葬儀業者から互助会サービスを使えると聞いて頼んだのに、使えなかった。断ったら、違約金10万円を請求された」など、深刻だ。

 葬儀社の業界団体「全葬連」は昨年、業者向けに消費者への説明責任や情報開示、見積もり・料金の明示などを定めた指針を作成、信頼回復に取り組む。

 互助会への苦情や相談も多い。国民生活センターに寄せられた相談は同年度に3152件と3年連続増。「解約を申し出たら、手数料を差し引かれた。納得できない」「退会したいが、掛け金は一切戻らないといわれた」など、解約時のトラブルが大半だ。

 葬儀サービスについて調査した公正取引委員会は、互助会が消費者に説明すべき項目として(1)積立金を完納した後の割り増しサービス(2)解約した際に払い戻される積立金の額(3)互助会が倒産した場合に保全される金額−などを挙げる。同時に、消費者にも「加入にあたり、納得いくまで説明を求め、約款を含めて中身を十分に理解して契約してほしい」と注文する。

 理解不足によるトラブルも多いとみられるためだ。例えば、互助会の掛け金は積み立て貯蓄ではなく、割賦販売の支払い。所定サービス以外に使えず、解約時には手数料が引かれ、元本割れする。消費者も注意が必要だ。

 互助会の約8割が加盟する全日本冠婚葬祭互助協会(全互協)は「後で『言った、言わない』のトラブルが出るケースはある。われわれの説明と消費者の理解の密度を濃くしていく必要がある」と話している。

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 【葬儀社選びの10箇条】

 1.葬儀のイメージを固め、価格、場所、サービス・質について、優先順位をつける

 2.担当者の電話対応、身だしなみ、立ち振る舞い、葬儀社のトイレをチェックする

 3.事前に割引を強調する業者は要注意

 4.予定人数を示し、料理、返礼品、宗教者へのお礼など、項目ごとの見積もりを頼む

 5.見積もりと葬儀施行は同じ担当者に

 6.火葬のみ、市民葬などの要求を快く受けてくれるか

 7.夜中のお迎えなど、細かな要望に応えてくれるか

 8.「せめてこれくらいは」など、人の心につけこむところは要注意

 9.地元の評判、依頼した経験者の話を聞く

10.2社以上から話を聞き、比較する

 ※葬儀社総合案内センター、葬儀サポートセンター、あさがお葬儀社紹介センター、お葬式無料情報センターの協力をもとに作成

(2008/09/24)