産経新聞社

ゆうゆうLife

編集部から いつかくるそのときは…

 4年半前、母の葬儀の喪主を務めた。医者からは「覚悟するように」と言われてはいたが、その日は突然にやってきた。故人の気持ちや望みを確かめることはおろか、自分の心の準備も、十分とはいえなかった。

 小さくとも、一般的な葬儀で母を見送った。初体験で余裕はない。頭のなかはすぐに真っ白になった。参列者に失礼はないか、滞りなく、無事に終えられるか…。式の最中、考えていたのは、母のことより、むしろ周囲のことだった。

 別れを惜しんだり、悲しんだりする間などなかった。何事も質素を好んだ母。「バカだね。無理しなくていいのに」。そんな小言が聞こえた気がした。

 連載を企画し、最近は身内だけで送る家族葬が増えていると知った。当時はそんなことさえ知らなかった。父を送る日が、いつかくる。そのときは形式にこだわらず、家族だけで…。今はそう思う。(横内孝)

(2008/09/26)