産経新聞社

ゆうゆうLife

年金 年金質問箱


 ■Q.「11年分230万円」の返還を求められました

 ■A.返還は必要ですが、会計法上5年で済みます

 これまで受け取ってきた年金が突然、本来よりも多く支給されていたことが分かり、社会保険庁から返還を求められるケースがまれにあります。何が原因で、こうした事態になるのでしょうか。読者から寄せられた一例を基に考えます。(佐久間修志)

 「返してもらうのは、230万円くらいですね」

 大阪府に住む真島ゆきえさん(71)は今年9月、亡夫が受給していた年金額が本来受け取る額よりも多かったことを、社会保険事務所の職員から指摘され、「そんな金額、どうしたらいいの」と、途方にくれた。

 真島さんは昭和31年、19歳で11歳年上の夫と結婚。夫は結婚9年目で出版関係の自営業として独立。後に会社を立ち上げた。真島さんも夫の独立を機に公的年金に加入し、以来、保険料を納め続けてきた。

 夫は65歳、真島さんも7年遅れて年金を受け取る手続きをした。2人でひと月30万円程度。「医療費は多少かかったけど、生活は心配なかった」という。

 ところが、夫は腰痛をきっかけに衰弱が進み、今年8月に死去。真島さんは悲しみに暮れながらも、夫の遺族年金の手続きのため、社会保険事務所に行った。すると、職員から「ご主人は加給年金を11年間、余分に受けています」と告げられた。

 職員は電卓を手に、過支給額を計算。真島さんの目の前で、電卓の表示は230万円を超えた。「正式には数カ月後、通知します」という職員の言葉を聞き、足取り重く家路についた。

 「四十九日の法要を済ませたばかり」という真島さんには、高額な返還金のことが心に重くのしかかる。「多く支給されたのはそもそも、社会保険庁の間違い。それなのに、こんな金額を支払わなければならないのでしょうか? 70歳を過ぎた1人暮らしにとっては、あまりにも負担が大きすぎます」

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 ■「任意加入」年代に落とし穴

 年金は、受け取る本人だけでなく、世帯単位で生活資金を保障するという理念で設計されている。厚生年金の受給者に、生計を維持する18歳未満の子供や、65歳未満の配偶者がいる場合、上乗せで支払われる加給年金もその一つだ。

 加給年金は原則、子供が18歳、配偶者が自身の年金を受け取る65歳になると、その分が減額される。だが、大正15年4月1日以前に生まれた旧厚生年金受給者には例外がある。配偶者が65歳になって老齢基礎年金を受け取っても、加給年金を引き続き受け取れる。

 厚生労働省年金課は「この年代は国民年金が任意加入。働く夫が定年後も配偶者を扶養できるよう、原則、加給年金を受け続けられた」と説明する。真島さんの夫もこの旧法の対象者。このため、真島さんが年金を受け取った後も、加給年金が支払われ続けたとみられる。

 ところが、ここで落とし穴が。配偶者が老齢厚生年金を受け取れるケースでは、話が別になる。

 真島さんが60歳のとき、自身の厚生年金加入期間は約210カ月。18年に満たないが、昭和11年生まれの真島さんは、中高齢特例で老齢厚生年金の受給要件を満たす。この場合、夫が旧制度の対象者でも、妻分の加給年金は停止される。

 社会保険庁は「真島さんの夫のように、任意加入だった旧制度の世代で、妻が厚生年金まで受給できるケースは多くない。このため、加給年金の支給が停止されなかった可能性がある」と分析する。

 ただ、会計法によれば、真島さんが返すのは、余分に支給された11年分約230万円のうち5年分。返還方法は年金からの天引きだが、「生活に支障がないよう、天引き額を調整するほか、振り込みなどの選択肢もある」(同庁)という。いずれの返済方法でも利子はつかない。

 社会保険労務士の中尾幸村さんは「社保庁もチェック態勢を充実する必要がある一方、受け取る側も自分の年金は国が把握するものと思いがちだが、配偶者の状況を含め、変化があったら自分から届け出ることも必要」と話している。

(2008/10/27)