産経新聞社

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年金 がん患者の生活整備 障害年金の使い方(中)

障害年金の請求にあたって荒川さんが用意した書類


 ■本人が亡くなった後の受給

 障害年金は、本人が亡くなった後、家族が請求し、受給することも可能です。しかし、がんや精神障害などでは、本人に自覚症状などの兆候があっても、確定診断に時間がかかることもあります。障害年金の申請には「初診日」が必要ですが、確定診断の日が初診日とは限りません。初診日が前倒しになれば、受給額が増えることもあるので、注意が必要です。(北村理)

 千葉県に住む荒川絵美子さん(45)=仮名=は今年2月、夫を約2年にわたる闘病の末、膵臓(すいぞう)がんで亡くした。

 会社員だった夫は一昨年6月に膵臓がんの告知を受けた。胆石を7年前に患っていたこともあり、定期的に診断を受けていた。しかし、しばらく前から訴えていた背中の痛みが検査で顧みられることはなく、告知では、いきなり「転移のある進行がんで手術不能」と伝えられた。

 しかし、最後まで職場復帰するつもりだった夫は抗がん剤治療を中断。その年の暮れに専門病院で手術を受けた。以降、体調を崩しがちで、昨年5月、休職届を出して治療に専念した。

 昨年11月、知人から、がんで障害年金が受給できると教えられ、手続きを開始した。休職中の会社も積極的に請求手続きを進めてくれたが、病院に記入を依頼した診断書は戻ってこず、夫は請求手続きを始めて3カ月後に亡くなった。

 荒川さんは「夫は当時、(健康保険から)傷病手当を受けていましたが、私も仕事を辞め、看病に専念しており、傷病手当が止まった後の家計を考えていたようでした」と振り返る。

 夫とともに2年にわたる闘病をした荒川さんの気持ちはまだ癒えないが、ようやく仕事を始める気にもなってきた。周囲の勧めもあり、手続きが未完で、受給にいたらなかった年金の請求手続きを始めた。「夫が最後に家族のために考えてくれていたことを果たしてみようと思います」

 ■告知日と「初診日」は必ずしも一致しない

 障害年金を受けるには、(1)病気やけがが生じたときに公的年金の被保険者で、納付要件を満たしている(2)一定期間が過ぎ、状態が定まった時点での病気やけがによる障害の程度−が、ポイントになる。

 このため、「初診日」の特定と、初診日から1年6カ月後の「障害認定日」が重要だ。

 荒川さんの場合、仮に、がんを告知された一昨年6月を初診日とすると、1年6カ月後は亡くなる2カ月前の昨年12月だ。この時期には、入院先で「食事もできず、歩行も介助が必要な状態だった」という。

 社会保険労務士の浅見浩さんは「年金に加入しているときにがんの診断を受け、がんが原因で亡くなる前は日常生活も困難な状況だったとすると、障害年金を受給できる可能性はある」とする。

 障害年金が受給できれば、障害認定日の翌月の1月と死亡した2月の2カ月分の障害年金が支給される。荒川さんは厚生年金に加入しており、妻と高校生の子供がいるため、障害の程度が1、2級なら、障害基礎年金と障害厚生年金、加給年金が支給される。

 ただ、初診日について、社会保険庁は「体の症状を訴えたころの診断を、初診日とできるので、必ずしもがんを告知された日が初診日となるわけではない」とする。がんの場合、兆候があっても、すぐにがんの診断がつかないことも少なくないからだ。

 特に、荒川さんの場合、確定診断を受けた日ではなく、もっと早い時期を初診日にできれば、1年半後の障害認定日も早まり、受給期間も延びる。

 膵臓がんは自覚症状があっても、発見が遅れがちで、その分、初診日の特定も難しい。荒川さんも当初、告知を受けた日を初診日と考えていたが、今は夫が背中の痛みを訴えるようになった、告知より1年ほど前の診断書を用意する予定でいる。

 浅見さんは「過去のカルテを取り寄せるには、時間も労力もかかる。しかし、初診日をさかのぼれれば、受給期間も延びる。確定診断を受けた日が必ずしも初診日ではないので、要注意です」と指摘している。

(2008/12/09)