産経新聞社

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年金 がん患者の生活整備 障害年金の使い方(下)


 ■病状の進行に応じ改定請求

 障害年金はいったん支給が認められた後も、病状が進行すれば、年金等級が上がり、年金額も増えます。がんの場合、進行すれば、認定された等級が現状の障害の度合いに比して軽いことがあります。専門家は「障害の変化に応じて、年金を請求し直すことが重要だ」としています。(北村理)

 愛知県に住む山本慎司さん(35)=仮名=は、肺がんの闘病生活が4年になる。一昨年3月、北海道にある会社を休職。5月には肺がんが原因とみられるパニック障害も引き起こし、鬱病(うつびょう)と診断された。

 休職後、愛知県の実家近くでひとり暮らしをしながら通院治療をしていたが、現在は地元のがん専門病院に入院し、治療に専念している。

 その間に傷病手当金を1年6カ月受けた。「傷病手当金が停止になった後のことを考えて、障害年金の受給を申請した」という。

 当初、障害年金の請求は、肺がんと鬱病の双方で行い、それぞれ3級の認定を受けた。今は障害厚生年金の最低保障額年59万4200円を受給している。

 肺がんは転移もあり、楽観はできない。しかし、山本さんは水泳が得意で、以前はインストラクターの仕事の経験もある。「医師も驚くほどの健闘ぶり」(家族)だという。

 山本さんに代わって、障害年金の請求をした社会保険労務士の中村朋子さんは「診断書では、生活への支障の度合いは2級相当だったが、肺活量や血中酸素の数値などは悪くなく、結果的に認定では3級になった」という。

 今後も独力で生活を送りたいという山本さんは「近く、3級から2級に改定請求を行うつもりだ」という。

 肺がんと鬱病のいずれも2級になれば、「併合認定」で1級となる可能性もある。そうすると、支給額も年額約100万円増える。「親に負担をかけたくない」という山本さん。いずれ在宅介護が必要になることがあっても、40歳未満だから、介護保険の利用はできない。障害年金が増額すれば、助けとなりそうだ。

 ■「併合認定」で重い等級に

 山本さんのケースについて、社会保険労務士の中村朋子さんは「病状の進行の度合いに応じて年金の請求をする、がんの典型例だ」という。

 山本さんは、健康診断で肺がんの疑いが指摘されて3年後に障害年金の請求に踏み切った。初診日と1年6カ月後の障害の認定日で請求する「認定日請求」をはじめとして、「併合認定」を得るため、別の疾病での請求▽病状が進んだ時点で請求する「事後重症請求」▽(重症化などで)請求1年後からできる「額改定請求」を利用した。

 中村さんによると、平成16年6月の初診日から1年半後の請求では、眠れないほど胸が痛んだり、血痰(けったん)が出たり、呼吸困難の兆候もあった。しかし、呼吸器のデータなどが悪くなく、不支給となった。

 そこで、状態の悪化した平成19年末に再請求し、3級が認められた。そこから間もなく1年。障害年金は1年たてば、支給額改定を求めることができるので、中村さんは改定を求めるつもりだ。

 「山本さんはその後、現在まで入院していることから、肺がんで2級になる公算が大きい。がんが原因で生じたパニック障害も、呼吸困難が頻発するなど重症化しており、鬱病への評価も重くなる可能性がある」と推測する。

 いずれも2級になれば、「併合認定」で1級が認められる可能性も高い。埼玉医科大の大西秀樹教授(精神腫瘍(しゅよう)科)は「がんは、病気への不安から半数の入院患者に鬱病など精神医学的な診断がつく」と指摘する。中村さんも「がんの状態が進んでおらず、単独では障害年金の等級が軽い時点でも、鬱病で認定を受ければ、併合で重い等級が認められる可能性は高まる」としており、がんで障害年金を請求する場合は鬱の状態に着目するのも一案だ。

 障害年金支援ネットワークの理事で社会保険労務士の青木久馬さんは「がんや鬱のような内科系の患者は、障害の程度が見えにくいので、年金等級の評価は難しい。外科系の疾患に比べ、判断の基準が不透明な部分がある」とする。中村さんは「がんになって障害年金を請求する場合は、病状の進行に応じて請求し、生活レベルの実態にあった年金を得る努力をすることが大事だ」と指摘している。

(2008/12/10)