産経新聞社

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年金 年金質問箱 定年後も働く場合(上)


 ■Q:厚生年金が100万円も支給停止されましたが…

 ■A:過去1年分の高い賞与が反映したためです

 定年後も働く人たちから「なぜ、こんなに年金が減るのか」との声が上がっています。団塊の世代では、定年後も同じ会社で働くケースが一般的。この世代は厚生年金を60歳から受給できますが、再雇用後の給与や賞与が高ければ、年金はカットされます。仕組みが複雑な上、年金振込額が変動するため、分かりづらいようです。(寺田理恵)

 大阪府の山本昭治さん(60)=仮名=は昨年12月に定年退職し、今年1月から同じ会社で嘱託社員として働いている。60歳から受ける年金は約125万円だが、支給停止額は100万円前後で二転三転した。

 「振り込まれる年金の額がたびたび変わります。なぜ、これほど減額されたのか納得がいきません」といぶかる。山本さんのように、厚生年金を受け、厚生年金保険料も納めながら働く場合、厚生年金は一部または全部が支給停止される。この制度を「在職老齢年金」と呼ぶ。

 山本さんは当初、年金のうち約93万円が支給停止された。ところが、9月に社会保険庁から届いた通知では、「7月に標準報酬月額が変わったことなど」により支給停止額が約96万円に。さらに「7月に賞与の支給があった」ため、停止額は約101万円に。10月に届いた通知では、支給停止額は約105万円になると記されていた。

 山本さんの受け取る年金は、働かなければ2カ月で20万円余り。しかし、実際に振り込まれたのは当初、2カ月分で約5万4000円。8月にはゼロ、10月には約2万4000円だった。

 「働けば働くほど年金が減ってしまいます。特に、8月の振込額がゼロなのが、分かりません。社会保険庁に問い合わせたら、『高年齢雇用継続給付の過払いを、年金で相殺した』とのことでした。いったい、どのような仕組みなんでしょうか」と山本さん。

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 社会保険労務士の渋谷康雄さんは「年金の支給停止額は、月単位で計算される。にもかかわらず、通知書では年額で記載されるから分かりにくい。そもそも制度が複雑で、多くの受給者は仕組みを理解できないから、なぜ自分の年金がその額になるのか分からない」と話す。

 まず、山本さんの支給停止額が大きい理由は、現役時代に受けた賞与が計算式で反映されたから。

 60歳代前半の年金は、〔1〕年金の基本月額と〔2〕総報酬月額相当額の合計が28万円を超すと、一部支給停止される。総報酬月額相当額には、その月以前1年間の賞与も月額で換算して足される。支給停止月額は「〔1〕が28万円以下、〔2〕が48万円以下」の人で「〔1〕+〔2〕−28万円」の半分だ。

 山本さんの過去1年分の賞与は、7月分と12月分で計約132万円。この額が今年6月まで〔2〕に反映したため、支給停止額が大きくなった。渋谷さんは「過去1年間の賞与を反映するため、再雇用後の処遇に対応した支給停止額になるまでにタイムラグが生じる。また、標準報酬月額の改定によっても支給停止額が変わるが、この改定と実賃金の改定時期にもタイムラグがある」とする。

 山本さんが今年7月に受けた賞与は約10万円と、現役時代に比べて大幅にダウン。年金停止額が減るはずだった。

 しかし、一方で月給に基づく標準報酬月額がアップした。嘱託としての山本さんの給与は21万円余りの予定だった。ところが、折からの好景気で勤務日数を増やしたため、実際の給与は1月当初から約28万円に。標準報酬月額も、7月には実態に合わせて改定されたようだ。その結果、支給停止額は年換算で約101万円になった。

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 さらに、8月の年金振込額がゼロになったのは、3月から受けていた高年齢雇用継続給付の影響が出て、在職老齢年金が「併給調整」で減らされたためだ。

 併給調整による停止額の上限は、標準報酬月額の6%。ところが、この減額が行われるまでには、高年齢雇用継続給付の開始から数カ月のタイムラグがある。その間は減額前の年金が支給されるため、社会保険庁にとっては年金の“払いすぎ”となる。山本さんの場合、8月支給の年金から減額が始まり、しかも、過去に“払いすぎ”た分も差し引かれた。このため、支給額がゼロになったものと見られる。

 渋谷さんは「高年齢雇用継続給付を出した上で、併給調整で在職老齢年金を減らすより、初めから高年齢雇用継続給付を引き下げることで、併給調整をなくす方が、分かりやすいし、タイムラグもなくなる」と指摘している。

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【用語解説】高年齢雇用継続給付

 60歳以上、65歳未満の雇用保険の被保険者(被保険者期間が5年以上)で、賃金が60歳到達時の75%未満に下がった人に給付される。給付額は、60歳以後の賃金(33万7343円未満)の最大15%。

(2008/12/11)