産経新聞社

ゆうゆうLife

年金 年金質問箱 定年後も働く場合(下)


 ■Q.同じ給与でも年金を全額もらっている人がいます

 ■A.異なる制度だと、減額の条件が違います

 定年後に働く場合、給与や賞与が一定以上だと、年金がカットされる在職老齢年金。「同じ職場で、年金がカットされる人とされない人がいる」との疑問が寄せられました。年金カットは同じ年金制度内の仕組みのため、「厚生から共済」「共済から厚生」など、再就職先が異なる年金制度だと、適用されない場合があります。年金額や給与が同じでも、前の職場が違うと、扱いに差が出るので、勤労意欲に影響があるようです。(寺田理恵)

 「将来の年金不安にかられ、少しでも働けるうちに預金残高を増やそうと、過去のプライドを捨てて仕事を探しました。再就職して3年になりますが、毎年、支給停止額の通知を受けるたびに働く意欲が、がっくりと落ちます」

 かつて大手企業に勤めていた田中弘司さん(63)=仮名=は、加給年金を除いた年金額が約260万円と高め。しかし、このうち約65万円が支給停止されている。

 サラリーマンが定年後も厚生年金に加入して働く場合、年金と給与や賞与を合わせた額が一定以上だと、年金が減額される。この制度を「在職老齢年金」と呼ぶ。

 田中さんの再就職先の月給は約17万円。現役時代より大幅に下がったが、年金との合計が一定額を超え、在職老齢年金が適用される。「法律で決まっていることだから、仕方がないと思っていました。でも、それも、同僚の話を聞くまでのことでした」と話す。

 田中さんの同僚は元公務員。受けている共済年金は、どうやら田中さんよりも多いらしい。それなのに、「支給停止はない」というのだ。

 田中さんは「その後、何かの本で、共済年金受給者が民間で働く場合、減額される基準は48万円と知りました。私のように厚生年金だと、基準は28万円。公務員との違いに、驚きました。なぜ、こんな制度を、と腹が立ちます」と怒る。

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 厚生年金と共済年金は法律が異なり、原則、支給停止の対象者を同じ制度内に限っている。

 社会保険労務士の渋谷康雄さんは「在職老齢年金は、厚生年金受給者が、厚生年金の被保険者として働く場合に適用される制度。同じ職場でも、減額される人とされない人がいるため、雇用者も勤労意欲を維持するのに困るケースもある」とする。

 60歳以上、65歳未満の厚生年金受給者が、厚生年金に加入して働く場合、「〔1〕基本月額+〔2〕標準報酬月額相当額」が28万円を超すと、在職老齢年金が適用される。「〔1〕が28万円以下、〔2〕が48万円以下」の人だと、「〔1〕+〔2〕−28万円」の半分が支給停止される。「〔1〕+〔2〕」が28万円以下の場合はカットされない。

 同様に、共済年金受給者も、同じ共済年金に加入して働けば、同じ仕組みがある。「〔1〕+〔2〕」が28万円を超すと、在職老齢年金と同じ計算で支給停止される。

 しかし、再就職先が共済で、受けている年金が厚生年金の場合は、在職老齢年金は適用されない。もし、田中さんが私立学校の教職員として再就職していれば、私学共済に加入し、厚生年金はカットされなかったはずだ。

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 ただし、公務員が定年後、民間に再就職する「共済から厚生」の場合は、収入が一定額を超えれば、年金が支給停止される。「〔1〕+〔2〕」が48万円を超えるケースだ。

 国家公務員共済組合連合会では「共済年金の受給者が、厚生年金や別の共済組合の職場に再就職した場合、受給者から被保険者届を出してもらう。国家公務員共済と地方公務員共済は同じ共済組合として扱われるが、私学共済は別の共済。48万円を超すと、一部支給停止の対象となる」とする。

 共済年金を受給している田中さんの同僚は「共済から厚生」のパターン。「〔1〕+〔2〕」が48万円を超えないので、支給停止されないようだ。

 また、定年後、厚生年金に加入しないパートや自営業者として働く場合も、在職老齢年金が適用されない。

 渋谷さんは在職老齢年金の問題を「厚生年金受給者が、共済の職場で働く場合は支給停止されないので、制度設計としては不公平とは言い切れない。しかし、現実には、ほとんどの人が民間で働き、在職老齢年金を適用されるので、民間に再就職しても、48万円まで支給停止されない共済年金受給者が優遇されて見える。同じ制度内の再就職でも、違う制度への再就職でも、同じ支給停止のルールが適用されるべきだ」と指摘している。

(2008/12/12)