産経新聞社

ゆうゆうLife

編集部から 善意だけでは成り立たない

 「介護業界には、あまりにも経営知識がない人が多く、驚きますよ」

 メーカーを辞め、訪問介護事業所を起業した荒井信雄社長はそう話す。介護業界には、会社運営の基本となる貸借対照表すら知らず、中期経営計画も立てずに事業を経営する人が目立つという。

 「債権管理もいい加減です。会社は普通、未入金が続くと必死に回収努力をしますよね。でも、福祉畑出身の人は『お金がなくて、かわいそうだから、お金はいりません』と言うんです。気持ちは分かりますが、それでは事業は継続できません」

 同種の危機感からか、東京都は、社会福祉法人を新規開設した理事長向けに研修を実施する。「経営への意識差が激しいんです。福祉の志で一族で立ち上げたものの、理事会が機能せず、単なる親族会議になっていたり…。債権管理が不十分な法人もあります」と困り顔。研修は半ば、強制参加だという。

 介護業界は今や、競い合って質を上げていくビジネス市場だ。経営能力がなければ、理念は実践できず、倒産すれば利用者にも迷惑がかかる。

 かつて、私も善意の経営者に取材したことがある。「お金は二の次」と、収支には口を閉ざし、ケアの質向上に熱弁をふるった。しかし、理念は実践できたのだろうか。善意の経営者にこそ、本気で経営に取り組み、いいケアを実践してほしいのだが。(清水麻子)

(2008/12/19)